裏通り

□【One Rainy Day】
1ページ/2ページ

折りからの雨
強い雨
足止めされた遊画館
アンティーク屋の窓の外
ちらりちらりと仰ぎ見る。
風のない日の今日の雨
雨は音無く垂直に
地面に吸い込まれていく

 止まないな

ポツリと呟く遊画館
返事は無言
不審に思い振り返る
向けられた背中
頑なに見えるのは何故
背を向けるは雨音に対してか

 なにしてんだ

問うたところで返事は無し
流れる沈黙
破ったのはアンティーク屋
不意にポツリと零した

 迎えが来たな

外を見つめる遊画館
雨の向こうを透かし視た
白く煙る雨
歪む視界
紅き衣を透かし視る

 南天か

カロンとひとつ鐘が鳴り
立っているのは幼い少女
緋い和傘のその下で
頂辺に結ったお団子と
白いおかっぱがよく映える

 館長、お迎えに来ました

にこりとひとつ笑い顔

 珍しいな

気にせず遊画館

 柊が迎えに行ってこいって

パタンと傘が畳まれる
カロンと扉が閉められる

 お客さまがいらっしゃったの

 客?

繰り返す遊画館

 雨のお客さま

納得
立ち上がる

 柊はなんて?

カップを片付け
問う遊画館
南天ひとつ首傾げ

 お相手しておきますって

それ聞き遊画館
ひとつため息

 めんどそうな客だな

振り返る
見上げるアンティーク屋

 お茶 ごちそうさま

返事無し
上の空

 おい

ぼんやりと
今気づいたと
言うように

 ああ なに?

柔らかな笑み
ひとつ伴い
やはり上の空

 ……聞こえてねえのな

なんでもないと
身振りをひとつ

 帰るぞ南天

背を向ける

 はい 館長

店の主に
ぺこりとひとつ
くるり背を向け
先に立つ

 おじゃましました

カロンとひとつ鐘が鳴る
遠ざかる
霞む緋色の傘ひとつ

 ……あの子はまた忘れたのか

ポツリと零す
ただ一人

 …………

静寂に
次第次第に強くなる
雨音ばかりが染み渡る

 ……おや

気づく
気づいた
微かな変化

 不思議なことだ……

薄っすらと笑み
一人浮かべて
ひとりごちる

 静かになったな

見回す店内
己の城

 あれほど騒がしかったのに

はやる鼓動は
静まった
ゆっくりと
ゆっくりと
その鼓動は沈み往く

 雨の日は騒がしい

ポツリと零す
ただ独り

 向こうはどうなったかな……

クスリクスリと
笑み浮かべ
ゆらりゆらりと
瞳を伏せる

 ――Rainy Taker………

ひとつ息吐き

 難儀なことで

それきり忘れて
他人事
傍観
素知らぬふりで

此れは或る日の雨の御噺




next⇒蛇足
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ