裏通り

□【Memento】
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ある裏通りにその店はあったりする。


「あんたはいつもなんのためにこの店を開くんだ?」
眼鏡の青年がカウンターでうつ伏せている長髪の男に声を掛ける。
「……………」
応えはない。
「おい」
「……………」
やっぱり応えはない。
「おい!」
少し声を強める。
「……………」
けれどやっぱり応えはない。
「おい!!」
叫んだ。
ついでにカウンターを平手で打つ。
「ッ…………」
微かに動いた。
「う…………」
もぞりと起き上がる。
「うぁ………おはよ…………」
眠たげに額を押さえる。
「寝てたのかよ!あんたなんだったんだよ今までの流れは!」
男は顔に掛かる髪を除けながら、一人で熱くなっている青年を見上げる。
「………なんの話だ?」
「もういい!!」
青年はあーだのもーだの言いながら店の奥に入っていく。
「文句を言いながら何故店に来るんだ?」
カウンターに頬杖をつきながら男が訊ねる。
「ああ?!」
不機嫌に怒鳴り返される。
「あーうん、わかった。もういいわ」
男は一つため息を吐くと、またうつ伏せになる。
「なあ」
青年が店の奥から呼び掛ける。
しかし起き上がる様子がない。
「…………もう寝ました」
「おい!!」
「煩いなぁなんだよ」
「これはなんだ?」
男が視線を向けると青年は奥の飾り棚の引き出しの中を指差している。
「ん〜?」
見えないのか男が立ち上がる。
白衣の裾が動きに合わせてぱさりと落ちる。
視線の中に収まった引き出しの中には大小様々な硝子玉が転がっている。
「ああ、ビー玉」
「それはわかる」
キパッと返される。
「何かはわかる。ただなんでビー玉なんだ」
それは、何故こんな処に?という意図の問い掛けで。
「この店がどんな店かお忘れで?」
白衣のポケットに両手を突っ込み、クス、と笑う。
「なんかムカつくなその笑い方」
悪態を吐いてはみるが、相手は気にした様子もなく、余裕とも挑発とも取れる笑みを依然浮かべている。
「…………………………………………………………ありとあらゆるモノ全てが集まる店」
憮然という表現そのままの表情を浮かべて、おもいっきり間をあけて、青年が応える。
「正解」
にっこりと笑って男は青年の隣に立つ。
身長差のせいで青年は自然男を見上げるカタチになる。
「知ってる?ビー玉って琥珀と同じなんだよ」
「あんた頭大丈夫か?」
「君のようにいきなり暴言吐いたりしないから大丈夫じゃない?」
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