裏通り

□【The Clock Time】
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ある裏通りにアンティーク屋があるらしい。


「なんで『アンティーク屋』なんだ?」
「なにが?」
眼鏡の青年の疑問に長髪の男が疑問で返す。
「普通『アンティークショップ』か『古物店』だろう」
「アンティークという言葉は好きだがショップという言葉は好きじゃない」
「なんだそれは」
「別にいいだろ」
いつものようにカウンターに頬杖をつき、男が青年を見上げる。
中性的な顔立ちの彼には、そんな動作がひどく似合う。
「それにアンティークなんて名ばかりだろう?」
店の中を見ればランプもあれば古びた本もあれば玩具もある。
青年が鼻を鳴らす。
「だったらいっそ『がらくた屋』にしたらどうだ」
「いいねそれ」
「本気にするな!」
「自分から言っておいて、何故怒るんだ?」
心底わからないというように首を傾げる。
「そもそもなんでこの店は不定期経営なんだ」
「だってこの店副業だし」
なんでもないことのように答える。
「副業ねえ。だから客が来なくてもいいってか?」
「なんで怒ってんの?」
「うるさい!」
男がやれやれとため息を吐く。
「結構客来るよ?主に好事家と裏通りの住人だけど」
そこでクスと笑みを溢す。
「とこれでなんだかんだ言いながら何故君は不定期に開くこの店に毎回来るんだい?」
途端に何故か青年の顔に朱が昇る。
「うるさい!俺が暇な時に限ってあんたが店を開けるんだろ!」
「だから何故怒る」
「そ、そもそもいくら副業と言っても不定期に店開けるのは間違ってるだろう」
それは苦し紛れの言葉だったのかもしれないが、とても的を射た発言で。
「まあねぇ」
男は軽く俯き、それに合わせて長い髪がさらりと頬に掛かる。
「―――……でもこれだって裏の表ってだけだし」
小さく呟く。
「ん?なにか言ったか?」
いや、と笑みで首を振る。
「結局は時間潰しだし。あとは勝手に集まってくる品物を次に渡すべき場所を造っただけだし」
「は?」
「今まで流れてきた時間の中で儂の処に集まってきたモノを、これから流れる時間に乗せて送り出す場所が欲しくてな」
「よくわからん」
青年が腕を組む。
「君のギャラリーに絵と名の付くモノ全てが集まるように、儂の処にはありとあらゆる(アリトアラユル)モノが集まるのさ」
そう言って男は立ち上がる。
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