Der Mondhimme U
□ 意外な一面
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ゴホゴホ。
愛しの彼が、眉を寄せて咳き込む。
『目が虚ろよ?』
「・・・熱があるからだろ」
『ちゃんとお粥食べなさい?』
「・・・わかったからマリアは部屋に戻れ」
『戻れったって、こんな状態のジャンを一人にしておけないわ』
「・・・煩い」
多分、私を気遣って言ってくれているのだろう・・・でも、無理よ。
いつもよりツッコミに覇気がない。
そりゃ、39℃もあればそうなるか。
早起き一番のジャンが、今朝は起きてこなかった。
どぅしたのかと思い、布団を開けると・・・
真っ赤な顔をした彼。
どうやら、風邪をひいたらしい。
「・・・いいから戻れって」
『そうはいかないわよ。折角ジャン風邪引いたンだから、とことん看病するわよ♪』
「・・・ふざけるな」
否定の言葉を無視して部屋に居添わるマリア
解熱剤が切れてきたのか、今にも湯気が立ち上ぼりそうなほど熱いジャンの身体。
いつもは結構に冷えきった人間なのに、なんだか滑稽だ。
『ほら、何か食べないと御薬飲めないわよ?』
「・・・食べる気がしない」
『我侭言わないの』
「・・・だって」
・・・だって って。
なんか、ジャンが子供みたい(笑)
『食べるっしいうか、お腹に入れればいいのよ?』
「・・・嫌だ」
『どぅして?』
「・・・身体を、動かすのがダルい」
・・・ふーん、じゃあ。
「・・・・・・」
『ほら、あーん』
「・・・ふざけるな」
『ふざけてないわよ。口開けて』
私が差し出したスプーンに乗せたお粥に、頑なに口を閉ざす彼。
『あーん』
「・・・よせ」
『ほら、早く』
「・・・」
口元まで迫ったお粥に、観念したジャンはゆっくり口を開く。
照れたように目線を反らして、なんだかかわいらしい///
『美味しい?』
「・・・御粥に良し悪しもない」
『・・・はい、あーん』
「・・・」
肩で息をしながらコクンとお粥を飲み込んで、大人しくジャンが再び口を開く。
流石のジャンも熱に参ってしまったのか、やたら素直だ。
もぐもぐと黙って御粥を食べるジャン。
「・・・御馳走様」
全てをたいらげると、ジャンは気だるそうに布団に潜り込んだ。
『ちょと、ジャン、ちゃんと薬飲まなきゃ』
「・・・んー・・・」
『ジャンってばー』
ジャンの肩を掴んで吃驚。
熱い。
早く薬飲まなきゃ、辛いわよね・・・
『ねぇジャン、御薬・・・』
ジャンが、熱のせいで充血して潤んだ瞳をこちらに向けてくる。
『・・・・・・ジャ』
ベッドの中のジャンが、私の手首を掴む。
じんわり伝わる熱。
『・・・なぁに?』
「・・・・・ボーっとする・・・」
そう言うなりジャンは手を引き寄せるもんだから、
『Σ ・・・・ちょっとジャンさーん?』
私はベッドに崩れ落ちる。
ジャンはというと、相変わらず眉をハの字に折って辛そうに息をしていると思ったら
抱き枕の要領で私の腰に手を回して、ひざ元に顔を埋めている。
『・・・ジャン、辛いんでしょう?』
私の問いに答えることもなく、ただ荒い息遣いだけが聞こえる。
そっと頭を撫でてみる。
『ジャン、御薬飲もう、ね?』
「・・・・・」
イヤイヤ、といった具合に首をふるジャン。
ちょっと貴方、何なんですかそれは。
熱に冒されて、幼児化ですか?
抑えてる手を外そうと頑張っていると
「・・・・・マリア」
『なぁに?』
「・・・何処へ行く」
『どこって・・・御薬取りに』
「・・・・・・ふぅん」
『・・・・離してくれませんか?』
「嫌だ・・・」
『嫌だって・・・;』
「・・・・くー・・・」
抱きついたまま、寝息を立て始めたジャン。
『・・・はぁ;』
愛しい彼の、意外な一面。
『これじゃあ、戻りたくても戻れないじゃない・・・』