一人暮らしの猛は一応住まいもあり、服もある。つまり衣食住の衣住は確保していた。だが料理はどうか?と言えば猛はあまり料理の腕は無かった。というより皆無だった。炊飯器を使う程度が猛の限界だったので、猛の朝昼晩の食事は白米以外全て冷凍食品。時には朝昼晩レトルトカレーなんてこともあったのだ。まあ本人は何とも思ってないのだが。「ごちそうさまでした」手を合わせて一人お辞儀をする猛。こういったことも忘れないことが猛の長所であろう。いい意味で。その日も5分前行動を心掛けて早いうちに出掛けることにした。そして学校に着いた時、後ろから「本郷先生、おはようございます」と千鶴の声が。「あ…千鶴さん。おはようございます」即座に反応した猛。「今日も宜しくお願いしますわ」にこやかに笑う千鶴。「は、はい」少し驚いた。今自分の目の前にいる女の子が昨夜自分の腕を掴んで泣いた女の子とは思えないので。そんな千鶴の後ろに少年と少女がいた。少女の名前は分かる。「村上 夏美」という演劇部所属の子だ。が、「あの…」「ああ。本郷先生、この子はうちの小太郎君よ。本当にいい子なのよ」と言って自分の胸に小太郎の顔をうずめさせる千鶴。小太郎はその中で「ちづ姉!やめろて!」ともがいていた。それを見て少し笑ってしまった猛。その時千鶴が猛にこう言った。「本郷先生。良かったら今日私達の部屋に来ませんか?是非先生に夕食をご馳走したくて…」それには昨夜のお礼も含めてであろう。だがそれを言わないのは千鶴の優しさであろう。(言ってしまったら猛の正体がバレてしまうからである)「あ…でも申し訳ないですよ。それに迷惑かもしれないし…」すると千鶴はこう返した「ならもう一つ、少し勉強を教えてくれませんか?」「あ…それなら、分かりました。じゃあ今日お伺いします」するとあの双子がまたまた猛にぶつかってきた。「風香さん、史伽さん、おはようございます」猛は自転車が全力でぶつかる衝撃でもびくともしないのでこれ位では蚊がついたぐらいなのだ。「おはようございまーす!」「ねえねえ何の話してたの?」挨拶せずに話題をきりだしたのは姉の風香である。「あ…今日千鶴さんの部屋で勉強会を開くんです」「えー!ちづ姉ずるいよ!ボクたちも本郷先生に勉強見てもらいたいー!」「うふふ。こういうのは早い者勝ちなのよ♪」「じゃあどこか都合のいい場所でやりますか?皆さんで」「え?」「「さんせー!」」千鶴は後で特大ネギを用意することにした。
「先生!ここ教えて〜!」「はい。ここはですね…」現在午後7時女子寮ロビーである。猛の担当教科は理科、高校では生物学なのだが、一応他の教科も高卒程度までは理解していたので、中学生ぐらいなら教えることはできた。「しかしすごいですね、ネギ先生は。その年齢で大学生よりも頭がいいなんて」「い…いえ僕なんてまだまだです。もっと頑張らなくちゃ」「あ…」そういえばネギ先生は「偉大なる魔法使い」になりたくて修行中なんだっけ。偉いなあ。今なんて大学生ですら自分の将来が分からないなんて言ってるのに。この子は10歳。普通なら一日中遊び通して土まみれになって帰ってくるような年頃なのに、ただ自分の夢に向けてひたすら頑張っている。僕も見習わなくちゃならないな。と猛は思った。とその時ネギが。「そういえば本郷先生は大学生の時どんなことをしてましたか?」これは皆興味津々だった。まだ体験したことの無い大学生活。それを聞けるのは少し嬉しかった。「やっぱり遊んでたりしてたの?」「合コンとか?」皆同じような反応をしていたが、「そうですね、主に研究ですかね、僕は『水の結晶』について調べていました」「水の結晶!?」早速ネギが興味を示した。「はい。まだまだ研究段階でしたが、いつかきっと見つけます!」「なるほど!そういうことならば私の研究室を貸します!」そう言ったのは葉加瀬聡美だった。彼女は自身の(?)研究室を持っているらしいので、猛もそれに甘えることにした。                  「凄いですね…今時の学校は」猛は改めてこの学校が凄く規模の大きい学校だと思った。「まあそれなりには研究道具が揃ってますのでどんどん進めてもらって構いませんからね〜」葉加瀬の陽気な声が聞こえた。猛も思う存分研究に没頭し始めた。


しかし


「…見つけたぞ」麻帆良大学の向かい側の建物から一人、猛を覗いていた。「裏切り者、本郷 猛!」魔の手は、もうすぐそこにあった。


「見て下さい。これが『水の結晶』ですよ。」猛は今自分が見たものを葉加瀬に見せた。「わあ…まるで雪ですね〜。水もこんなになるんですか〜」葉加瀬は「綺麗ですね〜」と言うと自分の実験に戻った。あまりこういうものに興味はないのだろう。「マッドサイエンティスト」と呼ばれている彼女だけに。本郷は少し苦笑しながらも自身の実験結果を書き記した。本郷の研究は、全国から様々な水を取り寄せてそれらに結晶があるか確かめるものである。

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