猛は一応運動はしていた。まあ体が衰えることは無いのだが、何となく。である。だが、「おい、凄いじゃないかあの人。300sを軽々片手で持ってるぞ?」「ああ…どうやら最近中等部に転任した本郷先生らしい。弟子にしてもらうか?」それを見ていたのは「中国武術研究会」の人だ。まあ部長があれなので、大概の力持ちには驚けないのだ。とそこに、「失礼するアル!本郷先生はいるアルか?」「あ!部長!ご無沙汰してます!本郷先生ならあちらに」「お!いたアル!」「…あ、確かあなたは…」「古菲アル!本郷先生!!ワタシと勝負するアル!」…え?「あの…質問の意味が…」「勝負は勝負アル!拳法なら負けないアル!」「だ…駄目ですよ。怪我したら大変です」「そんなのへっちゃらアル!さあ、早速かかってアル!」「そんなこと言われても…」「来ないなら、こっちからいくアル!」そう言い放った瞬間、古菲が飛び込んできた。「うわ!」慌てて避けた猛に古菲はパンチを出してきた。それを防ぐ猛。続いて古菲の蹴り。防ぐ。それが何時までも続いた。「おい、やはり凄いぞあの男。部長の攻撃を軽々受け止めている…」「ああ、部長の攻撃は防ぐことすら至難の業なのに…」そして、「はあ…はあ…いい加減観念してかかってくるアル!」いい加減観念してほしいのはこっちなのだが、どうやら勝つか負けるかしなくてはならないらしい。だとすればここは負けるべきだろう。が、どうやら手加減すればバレるらしい。あの顔がそれを語っている。「分かりました…じゃ、じゃあ…」古菲の次の攻撃が来た。と同時に鳩尾を最小限の力で殴った。だがそれだけでも古菲を気絶させるには充分だった。「「おおおおおお!!」」何故か歓声が挙がった。「え、ええと…だ、大丈夫ですか!?古菲さん!」とりあえず歓声を無視し、古菲を保健室へ。
そこへネギが通りかかった。「あ!どうしたんですか!?古老師!」「その…え?老師?」事情を話すとともに「老師」の理由を聞くことに…「え!?そんな凄い人だったんですか!?」「はい。…あと、気を付けて下さいね」「え?どうして?」ネギの同情するような顔に疑問を抱いた猛。「すぐに分かります」「え?」その時だった。ガバッと起き上がった古菲。「あ、無事でしたか。良かった」良くなかった。「本郷先生!!ワタシともう一度勝負アル!」「え!?」どうやら勝つまでやめる気は無いらしい。その日「勘弁して下さ〜い!」という猛の声が木霊したのは別のことである。
「散歩」。それは人間の大多数が生活の日課にしているものである。だがそれを部活にするか?と聞かれれば、疑問符がつく。この日も麻帆良学園を「散歩」する人が3人。「あ!お姉ちゃん!楓姉!見るです!」そう言ったのは散歩部一員鳴滝 史伽である。「何〜!?ホントだ!行くぞ〜!」これは史伽の双子の姉、鳴滝 風香。この2人、体も精神年齢も中学3年とは思えないが、それ以上に、「これこれ、ちょっかいをかけてはいかんでござるよ」身長約180pを誇る長瀬 楓も中学3年とは思いたくないのだが…「本郷先生〜!!」「え?うわっと」突如ぶつかってきた子供たち、「あ…確か、風香さんと史伽さんですね。散歩部の活動中ですか?」「そうだよ!ねえねえ、本郷先生も行こ!」「え、でも」散歩部って…何する所?「本郷殿もこの学園に来てまだ日が浅いでござろう?」「あ、はい。じゃあ宜しくお願いします」頭を下げる猛。「本郷殿」「はい?」「本郷殿は礼儀正し過ぎでござるよ。もっと遠慮なしに接してほしいでござる」「は、はあ…」「これは拙者達からの頼みでござるよ」「…はい。努力してみます」「それじゃあ、しゅっぱーつ!」「あ!待ってよ〜!」…「楓さん」「?」「有難う御座います」笑顔の猛。楓は少し顔を赤らめながら、「ニンニン」と言って歩き出した。「まずは水泳部に行ってみよ〜」「水泳部ですか?」水泳部には確か…「大河内殿がいるでござる」大河内 アキラ。男勝りな人かな?というのが名前を見た印象だった。「あ!あれあれ!あの人だよ!」「…あ」向こうもこちらに気づいたらしく、上がって来た「こんにちは。本郷先生。来てくれて嬉しいな」「あ、いえ」「散歩部?」「はい。学園の地理を覚えるのも兼ねて」 「そっか…また来てね?」はい。と言い残し、次の場所へ。「本郷先生、かっこいいな…」
次はバスケ部、「お!本郷先生!」「どうも」明石 裕奈所属のバスケ部、「頑張ってはいるけどね〜大会に反映されなくてさ」「そ、そうなんですか?」「うん、本郷先生が応援してくれれば勝てるかも」「は、はい。頑張って下さい!皆さん!精一杯応援します!」「あはは。ありがと!」意味が分かってない猛だった。…「次は、あ」「よ〜い、ドン!」「確か…春日 美空さん?」「そうだよ!美空ってば明日菜よりも速いんだよ!」「へ、へえ」明日菜の速さを知らないから評価しにくいのだが、確かに速い。無駄の無い走りだ。「やった!タイム上がってる!…ん?」
「どうも」猛に気づいたらしく、近寄ってきた。「こんにちは。美空さん」「うん!こんにちは!…どうだった?」「はい。凄かったですよ」「そっかー!ありがと!じゃ!」また走って行った。「お!朝倉〜」「あ!丁度良かった!探してたよ?本郷先生!」「確か…朝倉 和美さんでしたよね?」「そ!」「あと、相坂 さよさん」「「…え?」」朝倉ともう一人、さよは驚いた。「あ…と楓ちゃん、本郷先生借りるね!」「了解でござる」「あ!もう!」「行っちゃったです…」「まあいいではないでござるか」「楓姉、さよさんて確か…」「む?何のことでござるか?」「も〜」
「で、さよちゃんが見えるんだ?」「え?はい。…あれ?そういえばさよさん」「は、はい?」「何で浮いて…!?」「はい。私幽霊なんです」「は、はあ…」何とも幽霊らしくない幽霊だが、害は無さそうなので、気にしないことにした。「で、まあ取材に付き合ってよ」「取材?…ぼ、僕のですか?」「うん!実はね〜ここだけの話、本郷先生、先生の中で早くもイケメントップに上り詰めてるんだよ!」「は?」よく分からないといった感じの猛に朝倉は「先生好感度図」というのを出してきた。「これ見てよ!先生ぶっちぎりで一位だよ!」そこには3位から1位までの先生が。「3位高畑先生6341票。2位ネギ君8123票。1位本郷先生16325票!(小等部〜大学まで含める)凄いね〜!天狗になっていいんじゃない!?何かこれに対して意見ある?」「い、いやあ別に、そういうのあまり気にしませんから。普通に過ごすだけです」「ん〜普通過ぎ!もっとこう…そうだ!これからの目標とかある?」「目標は、やはり皆さんと仲良くしていくことですね」「普通過ぎ〜!」そんなこんなで。…「うん、まあ大体こんなもんかな?」「あの…役にたてましたか?」「うん!ありがと!」「ありがとうございます」2人(?)はお辞儀して記事を書きに行った。「あ…そろそろ帰る時間だ。勘定お願いしよう」とそこに、「…どうも」四葉 五月だった。「五月さんって確か料理研究会に入ってたんですよね」「はい。…それ私が作ったんです」「え!?凄いじゃないですか!凄い美味しかったですよ!」「…ありがとうございます」ほのぼのとした癒やし効果のある笑顔に思わずほころんだ猛だった。「私将来自分のお店を持って、世界中の人達に美味しい料理を食べさせてあげたいんです」「凄いな…」嬉しそうに自分の将来を話す五月に感心する猛であった。
その日の帰り道、「星が綺麗だな…」猛は星を見上げながら家に帰っていた。「…ん?あの人は…」望遠鏡を見ながら嬉しそうにしている人が一人、女子寮の屋上にいた。「那波さんか…」那波 千鶴は天文部の一人で、たまに寮の屋上で寒い中何時間も星を見るらしい。大人らしい生徒である。「…明日、天文部に見学に行こうかな」
今は午前1時、猛は報告書をやっと書き上げ、ようやく眠りにつくとこだった。その時だった。「…ん?」西の空に大きな蝙蝠がいた。「…まさか!?」東へ向かう蝙蝠。まるでターゲットを発見したかのようだ。「東…?千鶴さん!」慌てて部屋を出た猛は愛車「サイクロン」に乗り、蝙蝠を追った。やはり千鶴を狙っている。「トオッ!」蝙蝠に向かって一っ飛び。右チョップを繰り出す。魔物にダメージは与えたが、勢いは止まらず、そのまま女子寮の屋上へ、「…あら?」千鶴もやっと気付いたらしく、少し驚いた。が、すぐに悲鳴をあげそうになった。そこには巨大な蝙蝠の化け物と…「…人?」人らしき者。それすぐに起き上がり。蝙蝠にトドメを差した。方角からすると、この蝙蝠は自分を狙っていたのか?既に幽と消え去った化け物からは何も聞けないが。「あなたは一体?」千鶴はなるべく冷静に聞いた。あれ?何かこの後ろ髪と後ろ姿、この大きさ、どこかで見た気がする。「…本郷先生?」その人らしき者は肩をビクッとさせた。やっぱり。「本郷先生。もう隠さないでいいですよ」千鶴にバレてしまった。「仮面を取って下さい」猛は戸惑いながらもゆっくりとした動作で仮面を取った。「…やっぱり。…守って下さっていたんですね。私達のことを…」「…千鶴さん、お願いします…このことは」「ええ。誰にもお話しいたしませんから、安心して下さい」「…有難う御座います」帰ろうとした猛の腕を千鶴が掴んだ。「…その代わり、頼みがあります」猛は何かと思いながら顔だけを千鶴に向けた。「…絶対に、私達の前から消えないで下さいね?…約束して下さい」「…怖くないですか?僕が」そう言うと千鶴の声が途切れ途切れになり始めた。「…そんなわけ(ぐすっ)ないでしょう?(ひっく)」「…分かりました」ああ、この子たちはまだ中学生だったんだよな。汚れを知らない、純粋な。あんな平気でクラスメートを自殺にまで追い込む不良たちとは全然違う。だったら、この子たちだけはあんな不良にはさせない。目標ができた。「…誰も、欠けさせない。僕が守ってみせる…絶対に!」と。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ