「大神」「はい?」         …手を伸ばせばそこにいる。声を掛ければ返事が返ってくる。普通のことかもしれないが、こいつは違う。何故ならこいつは『code breaker』だからだ。それは『この世に存在しない者』。故に名前はおろか、住居や戸籍全てが、偽物。私は先程、大神と呼んだが、これも偽物。元々大神に名前は無い、いや‥無くなってしまったのだ。code breakerとして生きていくには戸籍は持てない。どこかの町に行き、仕事を忠実に淡々とこなしていく。それらが終われば、また別の場所に行く。大神もまた、去っていくのだろうか…?「大神」私はもう一度、大神の名前を呼んだ。何故だか知らないが、何となくだ。「どうしました?桜小路さん」冷静な声。ああ私か?私は桜小路 桜という一介の女子高生だ。こいつは私のことを『珍種』と言い、それ以来私を観察するだとかで登下校を共にしている。「…お前は、いつかこの町からいなくなるのか?」大神は少し驚いた表情で。「唐突ですね…ええ。いずれこの町からはいなくなります」「そんなのは駄目だ!」…あ。「ど…どうしました?」今のは…何だ?考えるよりも先に本能で言ってしまった。そしてまた。「駄目だ!大神、私達の前から絶対に消えるな!」そう言い放つと、大神は我が侭な子供に言い聞かせはるように、それでいて儚げに、淡々と喋り出した。「桜小路さん。僕はcode breakerです。人と交流を持ってはいけない。だから、特別な感情などは論外なんです」「嫌だ嫌だ!せっかくみんなと友達になれたのだぞ!」「僕は忘れませんから、大丈夫です」「私は!!」…「…私はっ…!お前にいてほしいと思っている!」…「もう日が暮れます。僕は帰りますよ…」…!「さ…桜小路さん?」気づくと、私は大神を押し倒していた。何故かは…嗚呼、分かっている。単なる我が侭だ。私個人の。消えてほしくないから。「こんなことしても…」無駄なのは分かってる。だから、私はこう言うのだ。                  「私の前から消えるな」                「そんな無茶な…」「反論は聞かないぞ」                 今は、こうして近くにいる。だがいきなり消えてしまう。せっかく出来た友達。そして私。…私はまだ言わないでおく。来るべき時にでも言うから。              離したくない離れたくない、せっかく見つけたのだから。
大神。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ