うらには

□モブ×阿幾―※微えろとち塗れ注意※―
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――面倒くせぇな…




ゆるゆると持ち上げた頭は、未だにうっすらと靄がかったまま。
ぼんやりと透ける視界は薄暗いままだが、狭い空間に先程聞こえたような数人の気配が見てとれた。


「何だ…呆けた面しやがって」

「てかマジで…男かよ」

「まーまー…でも結構可愛いくね?」


そうして手の中でチカチカと小さな光をチラつかせながら歩み寄ってくる者達を、此方もじっと凝視する――こともなく。
薄暗闇の中を只見詰める。今までそうしてきたように、この真っ暗闇の奥に想いを馳せるのは唯一つ。
全てを切り裂く掛け替えの無い相棒の輪郭を撫で上げながら、ギラリとその刃を唸らせる――


「……!?」

だがどうした訳か、相棒の影はその輪郭すら辿れずにスルリと抜けていく。
そんな折しも近づいた男が、にやにやと覗き込みながら頬に手を這わせて来ていた。


――吐き気がする…


全身が気怠く、頭の奥ががんがんする。
後ろ手に回された腕は痺れているのかさえもわからないが、指先から力が抜けていく感覚に僅かに眉を顰めた。


「起きてるか〜?」

ぺちぺち。と不快極まりない感触が肌を撫でつけるのには、一層眉を寄せてスッと顔をずらした。

「……っ」

いきなり首もとを掴まれ、上向いた視界に掠めたもの――下卑染みた笑い声と共に、きゅっと何かが首を締め付けた。
手が離れると、ジャラリと首に掛かる重みにグッと引っ張られる。

「……く…っ」

「はっ」

そのまま引きつけられ、首筋をザラリと滑る感触と耳元に吹きかけられた息に、一瞬喉がヒクついた。
うざい。とばかりに右足を繰り出そうとするも、ガシャガシャとパイプ椅子が音を立てるのみで動きが詰まる。


――チッ…

広がり始める妙な感覚に、肩で息をするように俯きかけると。パァン!と頬を張られ、ゆっくりと双眸を開いた。


「……」

「…オイ」

こっちを向け。と肉薄してくる顔面は、未だにはっきりとしない視界の中では更にパッとしないものに思えた。
もっと言うと、鈍く回る思考さえも頭の鈍痛に薄れていき…ぐったりと力が入らない。


――気持ち悪ぃ…

気怠げにそう唇を動かせば顎が持ち上げられ、無遠慮に口内へとねじ込まれる…ザラついた舌の動きにグッと喉が鳴った。


「……は、ぁっ…」


迫り上がるものに、不本意ながら熱く籠もった息が漏れる。

幾分かクリアになりつつある音が…荒々しく服に掛かる手の動きを、衝動を伝えてくる。
コートをずり下ろし、パーカーを捲り上げた裾から分厚い手が差し入れられてはヒタヒタと這い回った。
また別の者の指が口内を弄り…噛み切ろうとしても、微かに戦慄くのを笑うように相手のが唇を掠めただけだった。


「…や…め、ろよ」

「やーだね」

吐き捨てる声に、小さな顔面を向けて見物する別の男が答える――カシャリ。とフラッシュに目を眇めた。
はだけた胸元から腹部にかけてを撫で回す手は、そのまま胸の尖りをグリグリとこねくり回した。

「……っ」

以前、あの変質女から受けた時とは状況が違い過ぎる…だからだ。
崩れ落ちそうな意識の淵にいても、尚そこから沸々と湧き上がる感覚をかき集めてしまうのは薬品の所為か。
正直この朧気な意識下では、どうにかなってしまいそうではあった。
頭の鈍痛に最初からふっ飛ぶ思考、倦怠感と痺れに否応無しに高められていく身体…なかなかに耐え難い。


「…い、い加減に…ッ!」

「何だか…アレだな。お前さ」


慣れてるって感じなのな。と言う囁きが耳元を煩わせた瞬間、ガッっと腹を蹴られて椅子ごと倒れ込んだ


「…がっ…ぁっ」

げほげほと咽せさせる…此方の髪をわし掴んでは更に一発腹へと撃ち込んだ。


「……かはっ…ぐぇっ、はぁっ…」


苦しげに息を吐き続けるのを見下ろす数人の足がすぐ視線の先にあった。
やっぱりな。と整いつつある呼吸と共に小さく呟いた。
既視感――それはあの小さく腐った檻の外の、こんな遠い地までも…こうして追いかけてくるのだった。
背を冷たい床にずりずりと擦り付けられて、持ち上げられて…ドロリと流れ出す。


――慣れてちゃ悪いか…


否慣れる筈がない…ずくずくといつまでも孕み続ける、身体の芯からの痛みには本気で気が遠退く。
塞がれた口元は荒く短い喘ぎを時折零すのがやっと。頗る最悪の感触から逃れるには強制ブラックアウトしか術はないが。


意識の混濁が、その痛みすらも…そう勘違いさせる。
戦慄く指の先から一気に蕩け出す熱さに背をびくりとしならせ、暗闇の中見開く。


「―――っ」

既に知ってしまったものとは、それはあまりに違っていた。
熱を孕めば孕む程…己の身体は空っぽに向かっていく。
全ての輪郭が失われていく頃には、そうしてこの空っぽの器に闇の毒だけが溜まっていった。


「……ぐ、っ…はぁ…アッ」

沈みかける腰を、グッと引き上げられると同時に流れ伝うものが頭から頬にかけてを汚した。
最早怒りも罪悪感も憔悴仕切って何も浮かんではこない。
板の間のひんやりとした感触に、漸く緩い覚醒がなされる頃迎えるのはまた…閉ざされた闇だけ。
ゴロンと寝返りを打ち仰向くと、グググと押し迫るかのように広がる…黒の奥のまた奥を見詰める。
それへと持ち上げ伸ばす腕すら、半ばからスウッと闇に溶けて見えない。
眼が詰まる――その息苦しさに気付けたならばまだいい方だった。
黒の深淵には而して…これに慣れてしまうと、簡単に身を委ねてしまいそうになる。
目の前に転がってくる悍ましさも、苦痛も、現に埋もれた意識さえも投げ出して――


「…匡、平…」

だが…あの光を手に入れられたなら。とそうその名を口にすると魂が震えるから。
何とも知り得ない笑みが込み上げ、くの字に折り曲げた身体で薄く息を零した。
この同じく棲む醜悪の地で、たった一つ想い馳せる者。いろいろと…あまりにその処遇は違い過ぎてはいたが。
同じ地に居る――それだけでも意味はあった…本能が、そう求めていた。





「…っぐ、…ぅっ…!」

「お。結構いい腹してるな♪」

「いや…細っこ過ぎだろ」

「く、…ぁぁあ…っ」

薄暗がりの中、眇め見た光景は――チカチカと小さな光を手にニヤニヤと覗き込む、蕪雑面を並べてせせら笑う男共の姿。


「じゃあ、そろそろ」

「……っは」

耳元に妙に纏わりつく息遣いでそう告げた男の舌が頬をぬらぬらと滑っていった…のを切欠にする様に。
前髪が掴み上げられ…性急な手が彼方此方から伸びては顔を、はだけた胸元を弄られる。
ズルッと剥かれたGパンから覗く下脚に手がかかると、括り付けられたパイプ椅子がギギと一層軋み上がった。


「……!…っぁあ゛」

「なかなか…」

背けようと捻った首筋は…其処に引っ掛かる重い輪っかから伸びる鎖をグッと引かれ、ぐぐもった息が漏れた。
再び目蓋の奥をぬるり滑らせた感触には、身の奥がきゅっと縮こまる思いがする。
気色が悪く、ひたすら耐え難い。

「…んっ…ぐ…ぅ」


背けた肩を掴まれ、空かさず重みが覆い被さり顎を捉えられる。
躊躇いなく口内を蹂躙するそれには、一切何も返すことなくギリと睨みつけた。
次の瞬間鋭く鳩尾に撃ち込まれ、ゲホゲホと咽せ…空っぽの身体からは唾液がツウと流れ出た。
降りかかる嘲笑に…そうして僅かに切れた口の端を引き上げてみせると。
ガッと胸倉を掴み上げられ、首筋に鋭く痛みが走った。


「…ハァッ…ハァッ――」

熱い…これは何度となく打たれた薬品の所為なのか、絶えず唇からは熱く吐息が漏れ出る。


――気持ち、悪ぃ…

ぐるぐるとそればかりが廻る。
中途半端にパンツの引っ掛かる太腿を持ち上げられ、両肩を押さえつける力に…ギッと双眸を瞑り顔を背けた。

「お楽しみなう♪」

軽快な声と音が響く中。僅かに射し込む逆光に煽られ現れたそれは黒々とその猛々しさを主張していた。
濁り切ったそれの気配には、一瞥もくれてやる気も無い。ただ、見えていなくとも…間近に迫るこの饐えた臭いには、眉を顰めさせざるを得なかった。


――何、でこんな…っく


「……ハ」



「じゃ、いくぜぇ」

「…ふっ……ぐ!」

グイッと高く持ち上げられた両脚が、ぎちぎちと左右に押し開かれていく。
あられもない格好に――下腹部への圧迫感に一瞬息が詰まり、嘔吐感が迫り上げた。
今更ながら、差し迫った悪夢を前に精一杯の侮蔑の目を向けてやる…嗤えて仕方が無い――そうしてこれが現実だった。


「ぁ…ぎ、…っ…イっ――!!」


思考が、赤く切り裂かれる――だがその寸前。
轟きのような囁きが耳打ちしてきたのを…ああ、この声は確か覚えている。


「……ツハ」

周りに闇が広がり、茫然と立ち尽くすこの手をも侵食されつつあったその時…内より聞こえた声。


『ダイジョウブ』
『オワラナイ』

『コノカミヲツカエ』

「――暗――密刀っ!」



―――ジャキンッ。ズ、ズズズッ…


闇の片隅に、そうしてポウッと一片閃きが浮かび上がった。



「……」

「おい、此奴反応しなくなったぞ?」

「まさか今ので失神でもしたんじゃ…うわっマジかよw」

「いや、まだ挿れてねぇし」

「ハアァ〜?ったく…オラッ」

起きろ。とガクリと項垂れたまま急に動かなくなった此方を覗き込みながら、別の男がグイッと鎖を引っ張り上げる。
焦点の合っていない双眸は上向いたまま、何も映してはいないようだった――イカレてやがるが、構うものか。
そう、再び男が自身を当て行えた…その時だった。




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