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□手本なし
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そう。キラの目下の悩みとは,チョコのお返しをどうするかというその一点だった。無論今年は幼なじみの阿呆の画策のせいで,1つしか貰えなかったのだが。
そのたった1つが,大本命の阿呆からだったからまた困るのだ。
キラの体調を気にしたアスランが,キラへのチョコ贈与を禁止する上申書を出したバレンタイン前。アスランはあぁは言っていたが,確実にルール破りだ。
だからキラが大っぴらにアスランにお返しするのもまずい。
「困る」
あの日アスランはキラにチョコレートをくれた。意味は違っても好きの言葉をくれた。抱きしめて優しく触れてくれた。
幼なじみだからしてくれたそれらを,どうにも意識してしまって仕方ない。
もう18だ。髪にキスされたくらいどうってことない。16の時に初めては済ませてしまったし,何度か彼女とは抱き合った。
それなのに思い出すだけで体中熱くて,恥ずかしくて堪らないのだ。何かしてあげたいのに,何も浮かばないのが悔しい。
まさか本気で『元気でいるだけ』なんてのを実行するわけにはいかない。出来るならアスランに喜んで貰えて,かつ自分にもお得な手段。
この辺りが残念なキラ的思考なのだが,それでもいつもは頼れるラクスに助言を乞うことが,許されないくらいは理解していた。
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