Plusα

□フェイク
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僕らは人形。
虚無から全てを作り出す技巧の奏者。

 『逢いたいなら
     目を閉じて…現実を切り取れ』





『カットッ!!!』

モニターの確認に走るのは茶髪の少女。腰より長い髪と真っ白なワンピースの裾が踊る。

「よし。後はこっちのブイ係が頑張るからな。お疲れ」

「はい。お疲れ様でした」

にっこりと紫色の瞳が微笑んで,挨拶をしながらスタッフの間を縫っていく。

「あれで男だもんな。姫なんて呼ばれちまうのもしゃーないか」

その後ろ姿を見つめながら,監督は呟いた。名子役キラ・ヤマトも今年で18歳。同世代の男の中でも華奢な体,以前よりは精悍さを増したと言っても,可愛い印象は拭いきれない。

まして今のように女装しているとなると,キラを知らない人には性別の判断は難しいだろう。

5歳の時から変わらずに,画面の中で生き続けるキラ・ヤマト。成功を面白く思わない連中から贈られた名が,『枕営業のお姫様』

根も葉もないバッシングに使われる名詞さえ,キラは上手く利用しているように思えた。素直で可愛いキラ・ヤマト。だけど本当は,キラには誰にも見せない何かがある。

メガホンを取る人間はそこに惹かれる。新しい何かを,ほんの少し覗かせてくれる役者。だからキラは枯れないのだ。



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