Plusα
□テンスリーブリオッシュ
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大好きな人が傍にいてくれる幸せ
名前を大事に呼んで微笑んで,好きだと告げてくれる。温かくて柔らかくて,愛情は昼下がり。ほっと出来て,一息付ける優しいもの。
.01:テキスト クリア
「自信なくす」
若手俳優キラ・ヤマトは,ソファの上で猫のように体を丸めていた。1対のアメジストが長めの前髪に隠される。
「どうされました?突然」
キッチンから淹れたばかりの紅茶を運ぶのは,歌姫ラクス・クライン。育ちの良さをひけらかすでもなく,歌の技量に甘えるわけでもない。
16歳のデビューから2年,彼女のスタンスは変わらない。心を込めて歌う。それだけだ。もう1つ付け加えるなら,彼女の大切なキラのため。
「僕も18だよ?」
そう言って眉を寄せるキラは,はっきり言って可愛らしい。憂い顔の切迫した色気よりも,例えば幼子が困り事を抱えて慌てている,そんな微笑ましさ。
本人もそれは自覚している。大変,不本意ではあるが。男のプライドを踏みつけられるくらいには。
「普通さ?そんな男がラクスの所に半同棲してたら…こういうのすぐ載るよね?」
丸めた週刊誌で,ソファの肘掛けをボスボス叩く。別に載りたいわけじゃない。ただ,いわゆる芸能人が一緒に街を歩くだけで,世の中はニュースにしてしまうのに。
「信用されているのでは?」
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