過去拍手

□過去拍手3
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SS40 『コイグルイ』


人を好きになるのは狂うことと同義だ。
俺の場合は更に歪んでしまって相手を傷つけて思いの深さを計ってしまっているから,本当に酷いと思う。

こんなふうに思うこと自体が罪滅ぼしで,自己完結した後は晴れ晴れとした気持ちで相手を傷つける。
悪いのはどっちかな。こんなに好きにさせるお前なのか。ここまで思い過ぎる俺なのか。教えてくれればいいのに。
そしたらもっと愛して狂ってしまえるのに。

「キラは俺なんか好きじゃないだろ」

「好きだよ」

もう恒例のお約束を繰り返しながら,恥ずかしい格好をするキラを見上げる。涙を浮かべているのはきっと悲しいからなんだろう。
キラには分からないのだ。俺がこうなってしまった理由が。こうして辛いことも我慢していればいつか戻ってきてくれるかもしれないと,淡い期待がいじらしい。とても可愛い。


「それは嘗ての俺だろ。酷いことする俺はキラの大好きな俺じゃない」

「違うよ。どうしてそういうこというの」

「だって信じられないから。キラこそどうして無条件に好きなんて言える?俺が心底悪いものになって,キラの好きだったアスランが欠片も残ってなかったら…それはもう違う人間だよ」

涙に濡れた頬を掌で包み込んでやると,キラはまた一粒涙を零した。

「僕は馬鹿だから」

「うん?」

「そんなの認めて永遠に君を失うくらいなら,記憶に縋り付いても君を好きでいる」

「そんなに好きだったんだ」

「好きなの」

わざわざ時制を直すところがキラらしい。そんな小さなことに拘ってしまうほど,恋しく思っていてくれることが嬉しい。

キラは正しい。俺はどこも変わってなんかいない。
ただ表現の仕方が変わっただけだ。
ただ応えて貰うだけでは信じ切れない。
どこまでやってどこまで許してくれるか知りたい。


どこまで自分を壊してまで俺を選んでくれるか知りたい。酷いことしかしていないからこうして肌を重ねる時は,ありったけの思いを込めて触れてあげたい。

優しくして溶けさせて,本当が何かさっぱり分からなくさせてあげる。そうすれば,キラはもっと分からなくなってぐだぐだになってずっと傍にいてくれるだろう。

優しいキラに期待の魔法をあげれば,喜んで啜ってくれる。

「いいんだ?」

「君だからだよ」

「確かに体はそうそう替えられない」

じわりとまた涙を浮かべるキラとは反対に俺はとても気持ちがいい。知っているよ。
そういう意味でキラが言ったことでないことくらい。生憎頭は惚けてはいないから。

「素直なキラが可愛いよ」

だから感じて泣いてしまえ。気持ちがいい以上の絶望に。






「貴方は本当に俺を苛つかせますね」

「それは結構」


そろそろ酸素が足りなくなってきた部屋で彼女はまだ立っている。人生で初めての,そして最後の大怪我をした嘗てのプラントのトップは気丈にもアスランを見上げてきた。

「全て滅ぼして…それでもキラは変わらないと分かるでしょう。何故こんな無意味なことをなさいました」

世界に生きている人間はもうここにいるだけ。
それにしても意外だ。もう何も残っていないからといって,彼女が世界を軽んじるなんて。それもきっとアスランと同じ理由だからだろうけど。

「貴方も本当にキラが好きですね。俺のものだから一生手に入らないのに。無意味だ」

「ふ…本当に。ですが貴方でなければこんなに足掻くこともなく,もっと楽に死んでいますわ」

「それは最後の最後にキラを大事にさせたいということですか」

「今更目が醒めるとは思いませんわ。けれど生きていれば出来ることがあるかもしれないでしょう」






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