過去拍手

□過去拍手3
4ページ/21ページ



SS39 「閉塞された世界で」


そういう態度でしか僕に触れられないの。
発作的な行動に理由もなく、彼の云う態度もよく分からなかった。

閉じこめたいと思ったわけではない。
ただ近くで自分だけで彼を見つめてみたかった。
支配したいと望んだのではなくて、集中して彼を観察してみたかった。明るい所で見る彼はいつもにこにこと柔らかく笑っていた。
だからこの夕暮れの教室で、窓枠より下に頭が届くくらいのこの位置に、自分の腕と体で更に影を濃くさせて、彼を見つめてみたかった。
腕というのは人を見つめるにはぴったりの距離を作ってくれる。そんな知的好奇心という純粋な願いを自分の力でかなえる。
それを非難がましく、決めつけるように吐き捨てられて気分を害さないものはないだろう。

「俺は君に触れようなんて思ってもいないんだが」

赤く灼けた空気とともにアスランの与えた影は、彼の表情をますます固くさせる。

この反応はどういうことだろうか。まさか触って欲しかったのか。謙って彼を褒め称えて触らせて貰う。
そういうものに喜びを感じるのだろうか。それは意外。少なくとも今までの彼の印象とは乖離。
むくむくと浮かぶ疑問。彼は優位に立つのが好きなのだろうか。それならと常に複数仮定を用意できる彼の頭は次の行動へと移った。

彼は信じられないような顔で、いや不審者を見るような目でアスランを見下ろしている。少し前に教室どころか、廊下まで響く音があった。
それはアスランがほんの少し力を込めて後ろに倒れ込んだからだ。

勢い付いた体は机と椅子を2組程倒し、強かに床に背中を打ち付ける。
片手は彼の腕を取っていた為、丁度彼が馬乗りになる格好だ。固くなっていた表情に困惑と怯えが生まれ、涙さえ滲ませている。

犬の躾を応用してみたのだが、アスランの意図したところはまるっきり伝わっていない様だ。
一刻も早く逃げ出したいのだろうが、すっかり腰が抜けているらしい。
柔らかい体の感触は笑顔と似ている。

「君を痛めつけたいわけじゃない」

怖がらせたいわけでもないので、なるべく静かに伝えてみた。

「変わってるの?こんなことしてマゾヒスト?」

「なぜ。無抵抗を分からせるにはこれが最良だろう」

「違う。机…背中見せてよ」

「必要ないだろ。君にそんなことは求めていない」

彼は柳眉を寄せて首を振った。

「君は本当に行動の意味が掴めない。他の人が僕に望むことには興味もない」

「極単純なことだ。他の人間が望むことを君が望んでいないからだろう」

「じゃあなぁに?君の望みは僕も望んでいると?」

「早計だ。確かなのは他と俺が違うことだけだ」




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ