過去拍手
□過去拍手3
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アスランは無言でスイッチを切って分解していく。ベッドの前にある机にそれを広げて何やら書き付けると、またキラの隣に戻って来た。
「アスラン?」
肩に凭れかかってきた相手にどうしていいかが分からず、倒れてしまわない様に其方側に体重を掛けてみる。
必死にそんな事を続けていた時のこと。不意にアスランが離れ、掛けていた力がキラを動かす。
「うわっ」
意味が分からずきっと睨み上げると吃驚するくらいに優しく頬を撫でられた。長い指が壊れ物でも扱うが如く頬や耳、頭を包み込む。
人差し指が髪を掬って耳に掛ける。そうされた瞬間ぞくりと何かが走った。気持ちが悪いわけではなく、確かにいつも通りの優しい掌なのに何処かに連れ去られそうだ。
左手も右頬に同じように絡まって翡翠がキラを射貫く。これは何だ。怖いのかも分からない。
自分の置かれている状況もよく知れないまま、混乱のただ中でもアスランのことだけは分かった気がする。
割り切れない気持ちが沢山あって、それでもキラを絞め殺したくはないのだ。
けれどそれはぐらつく板の上で必死にバランスを取っているだけのこと。
そんな危うい感情なのだ。
キラはずっと変わらない。静かでいられるのもアスランの前だから。人から見て成長したように見えるのも隣の温度で、自分が生きていることを自覚させられているから。
アスランは知っているのだろうか。
知らないからこんなに辛そうなのだろうか。
「アスランありがとうね」
好きにならせてくれて。憎んでもいたわってくれて。
だから彼の左腕が頬から首の後ろに回っても、疑いもせずに翡翠を見ていられた。
自分は彼をどこまで覚えていられるだろうか。
それが唯一の関心で、視界が遮られても苦しくないと気付いたのは随分後だった。
口唇を甘噛みされ、また体重を掛けられる。今度もどうしていいか分からなかったが、あっさり倒れてしまった。
「何されると思ってたんだ」
「さぁ」
「誰にでもあるし、誰にもないよ」
とぼけた振りをしたのにあっさりばれる。復讐する気はないそうだ。
「もう分かったか?」
「今から何かするの?」
「言わせたいのか。それとも思いつかない…いや。お前は後者か」
「思いつかないから聞いたんだよ。つまりは言って欲しいのかな」
首の後ろが、頬が温かい。
乗り上げられた体の触れた場所が熱い。
かかる吐息が熱っぽい。
当たり前にずっと一緒だと思っていた僕らは違う。彼と僕はやっぱり違う人間で、それを忘れるくらいに似通っている。
「お前が恋しくて可笑しくなりそうだ。もっともこんなことして,とっくにおかしいよな」
そういう人を愛しいと思うのは可笑しいことなのだろうか。軍服の襟を引っ張って優しい口を貪ってやった。離れてしまうのも嬉しい。
アスランが知ってくれたから。その顔が見られたから。
だからは暫くはこのまま離さないでいて欲しい。
この熱気にはあてられていたい。
FIN
初出110907
移動121214