過去拍手

□過去拍手3
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SS38 『グルーブユアハピネス』


溶けあう空気が分かれた時、彼と僕は別々の人間なんだと改めて思った。



他人に触られるのが苦手だったと初めて認識したのは13の頃だった。いつだったか彼と街を歩いていた時、混み合った通路で不特定多数の他人と肩なり腰なりがぶつかった。

長期休暇が始まって人の出入りが多く、あの熱気にあてられて気分を悪くした。
ジュースを買ってくれた彼が肩を貸してくれて、頬で熱の具合を確かめながらずっと撫でていてくれた。

この幼なじみにならどこを触られてもほっとするだけなのに。今までアスランとしか肌が触れる程近付いていなかったから分からなかった。

彼とのことが普通なのではなく、今日体感したことが一般的なのだ。仲が良い大切な人なら不快に思うこともない。

それはトールやフレイたちも同じだった。そして触れた場所からは心が覗く。トールが肩を組めば、一人で戦うキラへの思いやりが、フレイに触れれば悲しみが伝わった。

正だけでなく負の感情もどうしたって伝わってしまう。だから人は防衛策として近しい誰かとしか、自身の領域を共有しようとしないのだ。

だから、傍にいられるということはそれだけでもう、少しは心を許して貰えることかと思う。気付いてから余計にそれが愛しくなった。




だからこの沈黙も、自分の言葉にさえ邪魔されずに彼との距離を堪能できる素晴らしい場だ。
話し始めれば話題は尽きないのに、時折アスランとの会話は途切れてしまうことがある。相部屋になってからそうなることは増えた。

特に艦内で慌ただしく動き回っている時は顕著で、いつでも話せるという気安さか、もしくは遺恨がひいた気まずさか。

もう少しだ。この宙域を抜ければ出撃が増える。だからこの空気をもっと味わっていたい。


部屋のベッドでトリィと遊んでいるとラクスに呼ばれていたアスランが戻ってきた。ジャスティスのことについて話があると言っていた。

いくつか荷物も持ちながら無言でキラの隣に腰を下ろす。ぴったりくっつく様にそうされ、薄いマットが歪に沈む。

「アスラン」

「トリィおいで」

トリィはその声にすぐさま反応してアスランの甲に飛び移った。

「パーツ交換してるのか」

「ううん」

AAに戻ってきてからトリィはキラの肩に止まっていることが多く、動きにも問題が見受けられなかった為だ。








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