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□春のない世界
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はらはら、はらはら、雪が降る。
まるで僕の心を映し出しように
白い、白い、淡い君の空―――…。
[春のない世界]
季節は春を過ぎ夏が来て秋を遠目で見ては冬が来た。
いつか君は僕が雪に消えてしまいそうだと小さく震える声でいったけど、
本当は僕よりもずっと君の方が儚くて幻想的で、目を離したら消えてなくなってしまいそう。
春なんか来なければいいのに。
ずっと君が残ればいいのに。
ぎゅっと手を握りしめると温かい人の温もりが僕の手を通して伝わってくる。
「いかないで」
僕が震える声でいえば刃物のように鋭利で鋭かった瞳は静かに笑う。
「ばーか。なんて顔してんだよ」
凄みをなくしたその声は出会った時とは考えられない程穏やかなものだった。
「かんっ、神田、が…そうさせてるんじゃ、ない…ですか」
震える声は誰の為?
愛しい人。
大事な、大切で、愛しい人。
「あの人を…見つけるんじゃ、なかったんですか…?」
そういえば君は切なそうにくしゃりと顔を歪めた。
「そう…だな……もう、会う事も出来ないだろうな」
「…神田!」
いつも君を独占していたあの人にも、結局会う事は叶わず君を苦しめるだけで終わってしまった。
「もし…あの人に会ったら…約束を守れなくてすまないって、伝えてもらえねぇか?」
「…っそんな、の…自分でいったら…いいじゃないですか…!」
「…すまない。最後だから、頼まれてくれ」
「最後なんて、いうな…っ」
意思の強いまっすぐな瞳が
不敵な言葉を綴る唇が
今感じるこの温もりが
潤いをなくし、赤みを失い、冷たくなってしまうと、
そう思うだけでここに立っている事も出来なくなる。
強くて
恐くて
怖くて
「いかないで」
今度は静かに、そういってみるが神田の言葉は相変わらずだった。
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