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□『貴方へ』
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そっと、瞼を開ける。





自分が今、何処にいたのかを思い出させる様に、

草花の匂いが一陣の風に乗せられ、鼻先を掠めていく。



ひどく懐かしい夢を見たものだ。



視線をめぐらせれば、辺りは一面の草原(くさはら)。


花屋など何処にも無く、

ましてや弟の姿があろうはずも無く。



思わず苦笑が零れた。







「そんなとこで何してやがる」

「イタチ?あ!そういやさっき鬼鮫の奴が探してたぞ〜、うん」


起き上がり、声のする方へ目を向ければ、

そこには赤髪と、両手に植物を抱えた金髪の芸術家が二人。



「旦那ぁ〜これまだ集めんのか?」

「いや、これだけありゃあ間に合うだろ。」



大して此方を気にすることはなく。

何気なく、二人のやり取りを眺めていると、

デイダラが植物に両手を塞がれながらも、器用に此方を指差す。

指先が向いていたのは自分の膝。

それを辿り膝を見やり、小さく息を呑む。



「旦那、あれ、なんて花だ?この辺じゃ見たことねえよな、うん」

「ああ。この辺じゃ咲かねえ花だな」



そこにあるのは、一輪、

淡く紫がかった青い花びらの。




「桔梗、か」




そっと拾い上げて、目の前に翳す。

それはとても懐かしい匂いがした。




「…おい、さっさと行くぞ」

「あ、待ってくれよ旦那ぁ」




興味が失せたのか、元々なかったのか、サソリは踵を返し、

デイダラはそれを追いかけその場を去っていった。







この辺りには咲いていない、

桔梗の花が一輪、

自分の許に。





思い当たるのは唯一人。




溢れそうになる想いを押さえ込み、

深く、深く息を吸い込む。



再び大地へ身を預ける。


口元は、弧を描き、


吐き出す息は、


微かに震えていた。



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