大乱闘小説

□盲亀の浮木
1ページ/1ページ


子供というものは、よく分からない。
毎日同じように笑って、泣いて、遊んで。
何が楽しくて、何が悲しくて、何に熱中しているというのか。
大人である我輩には、もう理解出来ないのか。

特に、こいつのことは。




甲高く騒がしい声で朝早くに起こされて、
身支度中からちょこまかとついて来られて、
朝飯の一部を横取りされて…

そして今に至っては、勝手に脚の間に座られ、髪を弄くりまわされている。
こいつは一体、何がしたいのだ。

「…おい」

「なぁにー?」

耐え兼ねて声をかけると返ってきた、語尾が伸びた返事と屈託の無い笑顔。
威嚇時と同じ声色で我輩に話し掛けられても平然としているとは。
…認めたくはないが、なかなか肝が据わっている。

「何をしているのだ?」

そう聞くと、黙り込んでしまった。
だがそれは脅えているわけではなく、言いたい事をまとめる時間の確保。
その証拠に、再び振り向いた顔は先程より更に明るく輝いていて。
その光が、水色の髪に反射したようにも見えた。
…そもそも、こいつには脅えなど存在しないのだろうが。

「あのね、ぼく、髪の毛伸ばそうと思ってるの」

「…?」

「でね、クッパさんの髪の毛、すごくキレイだから、さんこーにしたいの。
だからね、近くで見て、触って、けんきゅーするの」

年上の友人達に聞いたばかりなのか、どこか使い慣れていない様子の言葉が散りばめられた答え。
使い方を間違っていない限りは全く構わないのだが。

…違う、それより。

「参…考?」

我輩を?

「うん」

ますます混乱してきた。
何も我輩を参考にすることはないだろう、お前は綺麗な緑髪の娘と仲が良いじゃないか。フシギソウ、とかいってたな…あの娘を参考にすればいいじゃないか。
そうじゃなくとも、髪の長い奴なんて他にたくさんいるじゃないか。
そうだ、ピーチ姫に聞くといい。姫は子供が好きだし髪も美しいし、調度良いんじゃないか?我輩の紹介だということで、姫と接点が持てればありがたい。
…あ、いや、これは下心だな。いかんいかん。

とにかく、返答は余る程思い付いた。
だが、その前に聞いておきたい事がある。

「何故、我輩を選んだ?」

聞いてどうなる話でもないが、敢えてこんな恐顔の大人を選んだ理由が気になる…それだけだ。

「やだなぁ、そんなの決まってるじゃん」

その決まりが分からんから聞いているのだ、いいから早く答えろ。
…と、そんな口調の返事は抑えたが。肝が据わっていようが子供は子供だ。口調はなるべく穏やかに…と。

「何だ」

口調を変えようと意識した途端、一言しか返せなくなった自分が少し情けない。
…そんなことより、今はこいつの答えに集中するべきか。

「だってぼくたち、おんなじカメでしょ?えっと…うん、なかまいしき、だよ」

また使い慣れない単語か・という意見が脳内を駆け巡る前に、我輩の頭は驚愕で満ちてしまった。

仲間…だと?

「うん、なかまー」

…ああ、心の中でだけ呟いたつもりだったのに、声に出てしまっていたのか。

仲間。
久しく…いや、初めてかもしれない。他人から、そう呼ばれたのは。

「それにね、ぼく、力が無いからね、クッパさんみたいなパワータイプにあこがれてるんだよ」

我輩などを仲間と認める?
それに留まらず、尊敬の対象とする?
どれもこれも、何故そうするのか分からない。
もう、これ以上我輩を混乱させないでくれ。

「どーしたのクッパさん、ため息なんかついて」

誰の所為だと思っている。

「つかれてるときはねぇ、寝るといいよー」

本当に、無自覚な子供だ。
溜め息をつかせたのも、疲れさせたのも、
…期待させているのも、全てお前だというのに。

「…そんな事、常識じゃないか」

頭を撫でると、更に身をこちらに沈めてきた。
…無防備とは、まさにこのことだろうか。
部下達からも感じたことの無い雰囲気を言い表す言葉を見つけ出した時、小さな寝息が聞こえた。

「お前が寝るのか…」

結局、それから奴が起きる1時間後まで、我輩は動けなかった。
それでも怒りを感じなかった理由など、そんなものには興味が無い。



End...

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ