大乱闘小説
□紫煙と深海に包まれて
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それは、今年最後の大きな喜び
それは、あまりにも突然に
俺の前に舞い降りた。
「ん」
何の意味が含まれているのかも分からない一言。
というよりは、呟きに近いだろうか。
その呟きと共に、俺の目の前に突き出された腕。
あの大剣を振り回してるにしては華奢なそれの先にある手には、小さな箱が乗っかっている。
何も描いてないし、何も飾られていない。おそらく、こうしてコイツが持っていなければただの空き箱にしか見えないだろう。
「…えーと、どうした?」
「………」
答えが返ってこない。
ただ、その蒼い眼が、俺を睨むだけ。
質問を変え、再び尋ねる。
「何だ?コレは」
「………」
しかし、コイツは一向に答えようとしない。
普段以上に堅く結ばれた口から、言葉など一切出てきそうにない。
破られることの無い沈黙。
俺から話さない限り、この沈黙は半永久的に続くだろう。
せっかく珍しくコイツから話し掛けてくれたというのに、それではあんまりだ。
「なぁ、アイク?」
名前を呼ぶと、やっと口が開かれた。
「…そろそろ25日だから…忘れないうちに渡しておくことにした」
「25日?」
…あぁ、そうか。
今の今まで気付かなかった自分に嫌気が射す。
だが、今は自分を嘆く前に…
「クリスマスプレゼント、か」
受け取らなくては、コイツからの貴重な贈り物を。
「一応…いつも世話になっているからな」
差し出された箱をなるべく優しく、両手で受け取る。
「…開けていいか?」
「早く開けろ」
軽く急かされながら開けると、中から出てきたのは…
俺がいつも吸っている銘柄の煙草とライター。
そうか、俺が煙草好きなの考えてくれたのか。
うーん、…可愛いなぁ…
…ん?
「俺が好きな銘柄…教えていたっけか?」
「…毎日見ていればそれくらい俺でも分かる」
…おいおいちょっと待て。
つまりコイツは、一緒にいるとき、俺を観察していたというのか。
畜生、そうだと知っていれば、もっと仕草だとか癖だとか気を遣っていたのに。
せめて、煙草を吸う指使いだけでも、もっとコイツにかっこよく見えるようにしたのに。
…いやいや、じゃなくて、そんなことより。
「ありがとう、アイク」
「あぁ」
ふいとそっぽを向く紅潮した顔は、いつも以上に愛しく見える。
お返しに何をあげようか。
そんなことを頭の隅で考えながら、隣で座り込む細い腰に抱き着いた。
無言で放たれた硬い拳の一撃を、頭に浴びてしまったが。
END...