黒バス&その他&おお振り 

□それぞれの結婚記念日
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阿部side


「やっぱり…忘れてるのかなぁ…」


今日で隆也と結婚して丁度3年目。所謂、結婚記念日だ。
私の座るテーブルの前には普段よりちょっと豪華めにした晩御飯が2人分用意されている。
一人は私の分、もう一人は隆也の分。
なのに、肝心の隆也がまだ帰ってきていない。

もう10時だ…あと2時間で終わってしまう。
まぁ、一昨年も去年もいろいろあって祝ってなかったし…だから、今年は祝おうと思ったんだけど…


「はー」


口からため息が出るのはこれで何回目だろう。
いつも帰りが遅い…たぶん、浮気なんてしてないとは思う。あの性格だもの。
ただ仕事人間なのだ、ぶちぶち文句は垂れてるんだけどやることはきっちりやらないと気が済まない性格だから残業なんていつものことなわけで。
今日だって、きっと結婚記念日だってことを忘れて仕事にふけってるに違いない。

生活のため仕事は大事だけど…でも、やっぱりこういう日ははやく帰ってきてほしかった。

気合を入れた料理を二人で食べて、いろんなこと…最近の話や去年の話、高校のときの話とか…とにかく隆也と楽しくしゃべりたかった。

でも、これ以上は…ちょっとキツイ…かな。私だって仕事してる身だ。朝だって早い。
再度、今度は深く長いため息をついて立ち上がった。
片付けよう…
すっかり冷めてしまった隆也の分の料理にラップをするべく台所へ向かおうとした。


ピンポーン


不意にインターホンが鳴った。
誰だろう、こんな時間に…
なんだか怖くなって出ようか迷った。しかし、知り合いとかだったら失礼だ。
気構えだけして、インターホンの受話器を手に取り、耳に当てた。


「はい…」

「た……ただいま、俺だ」


受話器から聞こえてきた声はずっと待ち焦がれていた旦那の声だった。
やっと帰ってきた…と安堵と呆れ、しかし、遅いと毒づく若干の苛立ちとかが混ざって、一瞬なんて答えていいかわからなくなった。


「隆也…ッ」

「今、手が塞がってるんだ、開けてくれ」

「………うん」


いつものそっけない言葉にちょっとイラッとした。
こっちは何時間も待っていたのに…なんだ、遅かったことに対して謝罪の気持ちも篭ってない声は…。
こんな日に怒りたくなかったけれど、こればっかりは怒りたくもなる。

とりあえず受話器越しに怒ってもしかたないので、受話器を置いて玄関までいく廊下でなんて言ってやろうか考えながら、錠を外し扉を開けた。


「隆也、おそ…っ、え…?」

「………」


私の視界は怒りの余りどうかしてしまったんだろうか。
扉を開けた瞬間、目の前が真っ赤に染まった。

いきなりのことでしばらく理解できなかった。
隆也もなんか言ったらいいのに何にも言わない。ていうか、隆也はどこだ。

戸惑いながらも、目の前の赤をちゃんと見てみた。
よくよく見てみれば、それは薔薇、薔薇、薔薇…
真っ赤な薔薇の群れだった。
10本や20本どころじゃない。50本ぐらい…それ以上ありそうなくらいだった。


「た、隆也…?」


結局更に混乱してしまって、姿の見えない隆也に呼びかけた。


「ほら…」


そうすると、隆也の声がやっとして、次にその薔薇の花束を押し付けられた。
普通の花束だったらそこまでの重さではないだろうけど、この大きな花束はさすがに重かったし、手が回りきらなくて、結局ようやく姿の見えた隆也が反対側から支えてもらった。

なんだかそれがおかしくて、思わず笑ってしまった。

そのうえ、期待の波が段々と胸に広がっていく。


「隆也、これは…?」

「薔薇の花束に決まってんだろ…」

「見ればわかるよ……これ、なんの為?」


意地悪く聞いてみれば、「ちっ」と舌打ちするのが花束の向こうから聞こえる。
ちょっと背伸びして隆也を見てみれば、薔薇より全然薄かったけど頬が気のせいか赤い隆也が顔をふぃっと背けていた。


「俺たちの、3年目の結婚記念日だろ…プレゼント、お前に…」

「隆也…ッ」


あぁ、もう…どうしよう、すっごく嬉しい。
嬉しすぎて、鼻の奥がツンッと痛くなった。
さっきまでの苛立ちは都合よくどこかへいってしまって、私の胸は幸せでいっぱいだった。
だって、覚えていたどころじゃない、こんな…こんなプレゼントを用意してくれただんて…
これが幸せにならない方がおかしい。


「ありがと…隆也」


本当は思いっきり抱きつきたかったけど、私たちの間には薔薇の花束があって無理だったけど触れていた手をぎゅぅっと握り締めた。


「これからも、よろしくな…」

「うんっ」


これからもずっとずっと…皺くちゃになってもよろしく。

しばらくは部屋全体に薔薇の香りでいっぱいだった。

END

後日談


「ねぇ、隆也、お隣さんから聞いたんだけど、昨日、本当は9時には帰ってたんだってね」

「……」

「聞いた話によると、あなた玄関の扉の前であの薔薇の花束抱えてずっと立ってたそうじゃない。どしたの?」

「……立ってねーよ」

「お隣さんが嘘ついてるって言うの?」

「別にいいだろ、そんなこと!早く、飯つくれよっ」

「うわっ、なにその言い方!!あー、もういい!そんな食べたいんだったら、自分で作れば?私、知らなーい」

「なっ!!」

「立ってた理由と謝ってくれたら作ってあげる」

「てめ…っ」



………言えるわけねーだろ、らしくもない花束を買ってきてそれでいて恥ずかしくなって帰るのを躊躇っていたなんて…


END and END



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