テニプリ&イナゴ&男主置場 仮表
□本当のことは言えやしない
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じんわりと痛む頬に舌打ちをしつつ、屋上に行く階段をのぼる
今はテスト週間だから部活は一応ないので気兼ねしなくて済む
自然とため息が溢れ、早く屋上に行きたいという気持ちを胸に屋上への扉のドアノブに手をかけた
フラれて落ち込んで屋上にのぼるわけではない、屋上にはアイツがいるからのぼるのだ
「……」
錆び付いたような音をたてながらドアノブを回して扉を押せば、眼前に夏のときよりも色が薄い水色の空とコンクリの境界線が広がる。
吹き込んでくる風に目を細めながら、目的の人物を探した。
「……おっ、いた」
フェンスの前にスカートなのを気にせず片膝をあげて座り、空を心地良さそうに見上げる人物の名前を呼び掛ければ、彼女は振り向いて俺を柔らかい笑みで迎えた。
「あっ、仁王。どうしたの?」
そう聞いてくる彼女の隣に立ち、俺はさっきぶたれた頬をわざとらしく押さえる
「今、さっき別れたとこじゃ」
「またフラれたんだ」
「まぁ、そんなとこじゃな」
呆れたようにクスクス笑う彼女の隣に座った
そう、今さっき付き合っていたカノジョと別れてきた
「これまたひどくフラれたね、なにしたの?」
彼女はもうわかってるような口振りで問う
できたばかりのカノジョとフラれて別れることは日常茶飯事だ
ここへくるのもそれと同じくらいの頻度だ
「なぁんも。いつもと同じぜよ。また裏切られたとか言われて、最後には『サイテー!』言われてこれじゃぁ」
だいぶ痛みは収まっていたが、まだ少ししつこく痛さが残っている
あの女、思いっきり叩きやがって…
「そりゃぁ大変だったね」
明らかにそう思っていない言葉に俺は肩を竦めた
すると彼女はそんな俺を見てまた笑った
「別に俺は裏切ったつもりはないんじゃがな。
ただ付き合う前に、あまりお前さんに構ってやれんし浮気だってするだろうけどそれでもいいんならってちゃんと聞いてやったのに…それでもいいって言ったくせに、付き合うとみんなこれじゃ、いい加減うんざりだ」
はぁーと半ば濁点も混ざる勢いで深いため息を吐き出せば、どんまいっと冗談めかして背中を軽く叩かれる
叩かれたところに手の温もりが残って、ちょっと温かい
「女子はみんな勝手だからね。それに、きっと仁王に言い寄る女子は大概は仁王っていう名前を隣におきたいだけなんだろうね」
「俺はブランド物かってかんじじゃのぅ」
「仁王はペテン師のくせにかっこいいし、テニス部だしね」
「くせにって…まぁ、褒め言葉として受けっとっておくぜよ」
「あれ?そう聞こえなかった?」
その笑いながら憎まれ口叩く表情が、声が、どうしようもなく心地いい
落ち着くってこういうことなんだなってコイツの隣にいるとつくづく思う
他の女はどうしても自分のペースに引っ張りすぎて、こっちのペースを考えないから構わなくても息苦しい
だったら付き合わなければって話なのだが、俺にとって断るのさえ億劫なのだ
それに、埋めるためでもある
「…それに自分は外見だけ変わろうと必死なのに、必死すぎて自分で精一杯だから相手に変化を求めてる」
「……確かに」
彼女は俺の心ん中を読んだようにポツリと言葉を漏らす
「まぁ、私もそんな女子の一員だからあんまり言えないし、それに、そんな子ばかりじゃないのもわかってるけど」
「…………」
そんなことない
と言ってやりたかったがいつも開いた口から言葉は出ようとしない
「そういうふうに必死になっているところが可愛くもあるけどな」
「だからか」
それもあるけど、本当は違う
「まぁ………次の女の子が仁王に合うといいね。はい、これで冷やしなよ」
「……すまんのぅ」
少し冷たさが引いた缶ジュースを手渡され、痛みはもう心のささくれとともに消えていたが俺はそれを頬にあてた
結局俺は臆病なのだ
平静を装っているのも
ただ臆病なだけだ
本心から願うものこそ、伝えるのが怖い
崩れるのが怖いんだ
だから、
今だ、このままだ
この先もずっとそうだろう
俺に自分の本心を言葉に出すことはできない
だから、今は渇望を他のもので埋めて
なくなれば、
僅かな焦燥を胸に逢いにくるだけだ
終わり
突発的に書いたのでわけがわからんものになってしまった