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□鳥かごと魔術師
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この人の背中には大きな翼がついてる。
放っておけば力強く羽ばたいて、今にも飛び立ってしまいそう。
その羽をたたませるのが魔術師の仕事。
私の役割は…

鳥かごと魔術師
(ピオニー&ジェイド)


「もう一回!」
「今ので終わりですー」
「頼む!もう一回でいいから!次で最後!」
「それ、もう三回目です」

グランコクマで流行っているカードゲームを片付ける私に、皇帝陛下がしがみ付いてくる。
すでに片手じゃ足りないくらいの回数勝負して、結果は私の全勝。はっきり言って、この人はこのゲームに向いてない。極端に弱いんだよね、全く張り合いがない。

「約束でしょう?私が勝ったら公務をこなすとおっしゃいまし」
「じゃあ一緒に街へ行こう!気晴らしに!」
「…人の話、聞いてます?」
「寝言は夢の中でどうぞ」
「げ、ジェイド」

いつの間に入ってきたのか、ジェイドが済ました顔で私の心情を代弁してくれた。おまけに私にくっついていた陛下を剥がしてくれる。助かった…。

「彼女も困っていることです。仕事をしてください」

すっとジェイドが差し出したのは薄い茶封筒。おそらく書類が入っているんだろう。

「ほら、キリキリ働いて下さい」
「なんだよこれは。どこの部署か」

ぶーぶー言いながら封筒を受け取ったものの、

「らーーーーー!!」

蝋で固めた印を見た瞬間、陛下はぺしっと床に叩きつけた。
ああ、きっとめんどくさい用件だ。
ジェイドが拾い上げる拍子に印がチラッと見えた。あれは確か、国防司令部のものだ。
ああ、ど真ん中ストレートでめんどくさい用件だな。でもいかがなものか、さすがに国防司令部の用件をないがしろにするのは。
うーんと唸る私の目の前で、陛下とジェイドは口喧嘩を始めてしまった。

「この案件はもう聞いている」
「じゃあ確認だけでしょう、さっさと済ませて下さい」
「い・や・だ!」
「子供ですか、あなたは」

お互い本心からいがみ合っているわけでないことは承知しているが、国防に関わる書類を挟んで口喧嘩を楽しむとはなんて素敵なオトナたちだ。

「前から反対しているだろう、こんな人事は認めん!」
「いいじゃないですかー、この異動で私の負担が軽くなると考えて下さいよー」
「お前には適正な仕事量だろ」
「いやー、もう年でしてねー」

むう、これはなんとかしなくては。

「俺はだな、このマルクト帝国の繁栄と民の安寧を第一に考えた上で国防予算及び人事を」
「…仕事、終わったらまた勝負しましょう」
「よしジェイド書類を貸せ。見るだけ見る」

とりあえず軽口の叩き合いを止めようと間に入ると、狙い通り陛下がキリッと変身してくれた。

「…了解です」

ジェイドは書類を差し出しながら、ふう、と眼鏡の位置を直した。


そのあと、陛下の読んでいる書類が視界に入って、人事異動案の中に私の名前を見つけてしまい、更に配属先が「第三師団長補佐」となっているのを知って私は目を丸くする。それに慌てた陛下が「やっぱり駄目だ」と騒ぎ、ジェイドが嫌味のように笑って「それではいつまで経っても仕事が終わりませんよー」と目を光らせて、私はというと、とりあえずこのいい年した大人たちに振り回される状況に疲れ果てたわけだが、それはまた別の話として。

私の役割は魔術師の使う魔法と一緒に、鳥を繋ぐカゴ。中に閉じ込めるというよりは、外からしがみつかれる止まり木になることが多いのだけれど。
それはそれで斬新で、私たちらしいと思ってしまうのは、もう振り回されるのに慣れてしまったことの証としては充分かな。


元拍手
ピオニーは最高

 

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