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□夜の散歩
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夜の散歩(ガイ,男装)
「ここにいたのか…」
「…ガイ?」
聞き慣れた声に振り返ると、ひどく心配そうな顔の青年が歩いて来るのが見えた。
「探したぞ」
薄く微笑んで、俺と肩を並べる。
夜のバチカルは警備兵の姿もまばらで人気無く、眼下に広がる街はきらきら光っていた。
「さっきはどうしたんだ」
ガイは俺の隣で手すりに身体を預けた。
「珍しいじゃないか、ルークと喧嘩するなんて」
「…別に」
俺は不機嫌を隠すこともしない。しかし予想以上にトゲのある言い方になってしまった。少し後悔。
声音から想像するに、ガイは微笑んでいるんだろう。気を遣わせてしまっている。それが申し訳ないが、ころりとは態度を変えられない。
「関係ないだろ」
ガイの笑顔が、少し困ったように曇ったようだ。
「あいつはまだ子供なんだ。同じレベルで腹を立てても意味がないだろう」
君が大人にならないとな、と、肩をすくめる気配がした。
「わかってるよ…」
あの坊っちゃんの性格など、知り尽くしている。
「じゃあ、屋敷に帰ったら、こっちから謝らないとな。俺もついていくから」
ぽんぽんと、優しい掌が頭を撫でてくる。
毎度のことだが、俺がヘマをするとガイは文句も言わずフォローしてくれる。今もルークのご機嫌とりもそこそこに、俺を探してくれたんだろう。
まったく、頭が上がらない。
「…いい」
なんだか自分とガイの間にある大きな差が悔しくて、ガイの手を振り払うように手すりから離れる。
「そのかわり…少し、散歩に付き合ってくれないか」
ガイの助け無しにルークと向き合うまでに、もう少し心を落ち着けたい、というのが半分。
「…もう少しだけ、俺にも我が儘を言わせてくれ」
ガイの優しさに甘えたいのがもう半分。
ガイの体が手すりから離れ、また俺の頭がくしゃっと撫でられた。ああ、こいつ今きっとすごく優しい顔してる。
「喜んで。君の気が済むまで、いくらでも」
屋敷に戻るまでは、この笑顔は俺が独り占めだ。
元拍手