short/tales

□ふたりであるこう
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気付けば日が落ちてから随分経っているようで辺りは少し薄暗い。音素のイルミネーションがいっそう煌めき、人々の頭上に降り注いでいた。仕事終わりで立ち寄る人が多いのだろう、通りはますますごった返している。もう随分うろうろしているが、俺はこの有様。

(まいったな…)

色々思い返して頭を抱える。結局当てになりそうなアドバイスをくれたのはジェイドくらいだった。
しかし、香りの好みは人それぞれに細かいものだから、ただでさえ詳しくはない俺には香水というのは難しい。アクセサリーにしても、定番は指輪なのだろうが、これもデザインの好みが分かれるところだろう。そもそも、彼女の指のサイズが分からければ買うに買えない。ブレスレットやネックレスなら大丈夫だろうか。
彼女は、一体どんなものを欲しがるのだろう。どんなものなら喜んでくれるのか。
考えのまとまらないまま、もう何度往復したか分からない華やかな通りをとぼとぼ歩いていたときだった。

「…ガイ?」

聞き慣れた声に呼ばれて立ち止まり、声のした方に自然と振り向いた。振り向いてしまった。

「…あ」

まずった、と思った時にはずでに手遅れ。視線の先には、まさに今顔を思い浮かべていた彼女の姿があった。今もっとも出会うべきではない人に、絶妙のタイミングで出会ってしまった。

「や、やあ…」

情けない声をなんとか抑えて、笑顔を心掛けてみたがうまくいったかどうか自信は無い。
だってなあ。
もう一度いうが彼女は鼻が利くんだ。

「ガイ、仕事は?」
「陛下がもういいって言って下さってね」
「そう…こんなところで会うなんて」

どうしたの、と言い掛けて口を噤む彼女。ああもう、ほら言わんこっちゃない。
勘の働くこの人のことだ。こんな時間にこんな場所でうろうろしている俺の姿からだいたいのことは悟ってしまったのだろう。

「あー…まあ、なんだ、そういうこと、です」
「あー…まあ、なるほど」

ああ、残念。せっかくだからもっとビシッと決めたかったのだけれど、見られてしまったからには仕方が無い。さっさと決めなかった俺が悪い。

「えと、君こそどうしたんだい?」

お互いに妙に気まずい空気が漂い始めて、話題を変えようと尋ねたのだが、返事がない。
体をかがめ、彼女の顔を覗き込むと、くすくす笑う声が聞こえた。

「同じだよ」
「え?」
「私たち、似たもの同士なんだわ」

行動パターンが一緒、と笑う彼女に、ピンとくる。ああ、彼女もまた、俺と同じように仕事を終えてプレセントを探していたのだ。そして、手ぶらということは、同じようにまだ用意できていないのだろう。

「ははは…」
「ふふっ」

まいったな…。
本当に絶妙のタイミングだ。これはもう、アニスじゃないが「一緒に」選ぶしかない。
彼女も同じことを思ったのだろう、差し出した手を自然と取ってくれた。

「ま、行こうか」
「うん」

繋いだ手は氷のように冷たくて、でも俺の手も同じように冷えていたから特別びっくりはしなかった。彼女もまた、長い時間をこの通りで過ごしていたのだろうか。本当に、二人してどうしようもない。

「じゃあ、まずガイからね」
「俺のは後でいいよ。君は何がほしい?」
「うーん、そうだなあ…」

すっかり暗くなった街に帯状の光が淡く広がる。この街では、夜も昼も無くお祭り騒ぎが続く一年に一度の聖誕祭。
どこか気恥ずかしく思いながら、人混みではぐれないよう、そっと体を寄せた。
 
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