文
□闇夜
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今日もいつものように、体育委員会の活動とは名ばかりのトレーニングが行われている。
そんな中で下級生は次々と離されていき、かくいう私も委員長の七松小平太先輩にだいぶ遅れを取りながらも、必死で先輩を追い掛けているという始末で。
ようやく一番先を走っている先輩に見つけたと思ったら、先輩は月光もない暗やみの中で一人たたずんでいて、その雰囲気に息を呑んだ。
普段は底抜けに明るい先輩がこの闇に呑まれまいとしているように、ただ静かに目を瞑っていたのだから。
「なぁ、滝夜叉丸」
追い掛けてきた後輩の気配に気付いていたらしい先輩が、私の名を呼んだ。
「私達のこの先に、未来はあるのか?私は忍者を志して学園に入ったが、この道でやっていけるのか…」
およそいつもの先輩ならば口にしないような台詞を唐突に言ってのける先輩に戸惑い、私は何も答えられない。
学園の卒業を前にした先輩には、私には分からないような不安や心の闇を抱えているのかも知れなかった。
だがそんな先輩を見ていたくなくて、私の体は勝手に先輩に抱きついていてしまい、そんな自分に驚きながらも先輩に口を開いていた。
「学園を卒業しても、先輩はその志を忘れないで…そのままで突き進んでいて下さい。私も卒業したら、先輩をいつまでも追い掛けて、先輩にこうして手を差し伸べてみせますから」
自分でも、先輩に向かって偉そうな事を言っているとは分かっていた。
ただ、こんなにも弱気な先輩が、いつか消えてなくなってしまいそうで―――。
そんな事を考えていたけれど、先輩が暗やみの中でも分かるほどに暖かい笑顔で笑うから。
「有難う」と言ってくれるから。
私はやっぱり先輩が好きなのだと実感してしまう、そんな夜に感謝をしつつ、いつまでも抱き締めあっていた。
END?
【おまけ】
「僕達、いつ出ていけば良いんですかね?」
「さぁ…このまま帰ってしまっても良いんじゃないか?」
ヘロヘロになってここまで辿り着いたは良いものの、出るに出れない下級生達の姿が、そこにはあった。
END.