□月光
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夏も終わりに近付き、幾分涼しく感じられるようになったのはつい最近の事。

時には夜に鈴虫だろうか、何かの虫が発する心地よい音がしていて。

そんな夜を、伊作と留三郎の二人は忍たま長屋の廊下でのんびりと月を見ていた。


「もうすぐ秋だねぇ…」と伊作が独り言の様に呟くと、「そうだな」と短く留三郎が答える。

そうして沈黙が続き、ふと伊作の方を見ると、空を見て泣いているではないか。

びっくりした。
伊作は滅多に人の前では泣かない。
その光景にギョッとしながらも、つい見惚れてしまいそうな自分を押さえ、留三郎は何も言わずに伊作の顔を己の服の袖できつく拭き始めた。


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