それっきりのお話
□温かいカフェ
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都心から少し離れた山沿いには小さなカフェ。
夏場は繁盛しますが、雪の降る冬場になると客足がパッタリと無くなるこの店には、
代わりにちょっと変わったお客様が来ます。
チリンチリン♪
小さくベルの音を立てながら、外の冷たい冷気と共にカフェの扉がそっと開けられた。
その音を聞き付けて、
店の奥からこのカフェのふくよかな女店長が現れた。
「…こんにちは」
その姿を確認すると、たった今入って来た痩せた少年が控え目に挨拶をする。
「いらっしゃい。あら、初めてのお客様ね?」
店長がにこやかに声をかけると、少年はコクッと頷く。
「そうかいそうかい。
じゃあ好きな席に座っててちょうだい。
今用意するからね!」
店長はそう言うと、少年の返事を待たずにまた奥に引っ込んで行ってしまった。
少年は店の中を見渡してから、近くにあったカウンター席に座り、じっとしたまま店長を待つ。
外は雪のせいもあり、凍えるような寒さだったが、店内は暖炉のお陰で程よい暖かさになっていた。
その暖かさが少年を優しく包み込む。
しばらくすると、カチャカチャと音を立てながら店長が戻って来た。
「お待たせ!熱いからちょっと冷ましてから飲みなさいね。パンは焼きたてだよ。」
少年の前には温かな湯気を立てたミルクと、カリッと香ばしい香りのクロワッサンが置かれた。
言われた通り、少年はフー、フー、と息を吹きかけて冷ました後、一口飲んで、パンにかじりつく。
美味しそうに、幸せそうに黙々と食べ続ける少年を見て、店長も思わず頬が緩んでいた。
「お腹いっぱいになったかい?」
少年がパンを食べ終わったのを見計らって、店長が切り出す。
少年は満足そうな顔をすると、コクッと頷いた。
「おかわりはどうだい?」
店長はにこにこしながら言うと、少年は嬉しそうな顔をしたけど、首を横に振って いらない と意志表示をした。
「そうかい。冬場は食べ物が少ないからね、お腹が空いたらまた来るんだよ?」
少年はまた嬉しそうに笑った。
「ごちそうさまでした。」
それから立ち上がり、ペコッとお辞儀をした。
「お礼なんていいよ。あたしは好きでやってるんだからさ!」
店長は気恥ずかしそうに手をプラプラ振りながらドアに向かい、
チリンチリン♪
と音を立てて店長がドアを開けると、外の冷たい風が入ってきた。
ついで、痩せた黒い犬が店から勢い良く出て行った。
「今度は友達とおいでよー!」
走り去って行く犬に向かって叫ぶと、犬は立ち止まって振り返り、尻尾を二振りしてまた走り去った。
姿が見えなくなるまで見送った店長は何やら満足そうに頷くと、カフェの中へ戻って行った。。。
都心から少し離れた山沿いには小さなカフェ。
夏場は繁盛しますが、雪の降る冬場になると客足がパッタリと無くなるこの店には、
代わりに寒い冬場に、温かいミルクとパンを求めて動物達が時々訪れます。