お話小箱
□ハッピー・ハッピーバースデー
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「セリス、支度はできたか?」
そう言いながら寝室に入るとセリスは腹を抱えて床に蹲っていた。
「!どうしたセリス?」
「お、お腹が…赤ちゃん…産まれそう…イタっ…陣痛始まったみたい…」
「!!!」
予定よりも2週間も早い。
とりあえず俺はパニックになりそうなのを必死に抑えセリスを抱えベッドに寝かせ、フィガロ城へお産を手伝ってくれると言ってくれたエドガーのばあやを迎えに行くためテレポストーンを探したが見あたらない!
俺はどんどん焦り始めていた。
ちょうどそこへ飛空艇のエンジン音が聞こえてきた。
(セッツァーだ!)
俺は直ぐに外へ飛び出し、玄関に置いてある緊急を知らせる黄色い旗を空に向かって振った。
セッツァーはそれに気づき、島に不時着する。
「ロック、どうしたぁ!?」
「セリスが、セリスが…産まれそうなんだ!」
「マジかぁ!」
「直ぐにフィガロ城へ行ってエドガーのばあやを呼ばないと…」
「よし!俺が迎えに行ってくる!」
直ぐ様セッツァーは飛空艇をフィガロ城へ向けた。
――そして、今…――
俺とセッツァーはリビングでセリスの出産を待って居る。
もう、陣痛が始まってどの位経って居るのだろう…。
かなりの難産なのか?
無事にちゃんと産まれてくるのか?
男の子か?
女の子か?
色々な思いが次から次へと生まれてくる。
―…ォギャァ!ォギャァ!―
突然2階から元気な産声が上がった。
一瞬にして俺の心臓が躍りだす。
(産まれた!)
「おっ?ロック、おい、もしかして…産まれたんじゃねーか?」
セッツァーの顔もパッと明るくなり上の階に上がりたそうに思わずソファから腰を浮かせている。
「やったな!ロック!」
「あぁ!!」
俺たちは互いに拳をぶつけあい、歓喜の気持ちが満ち溢れていた。
「俺は、直ぐに飛んでみんなに知らせて来る!お前は早くセリスのところに行ってやれよ!
「あぁ!頼んだ、セッツァー!」
セッツァーを見送り俺は足早に家の中に戻り階段を駆け上がる。
目の前には寝室の扉。
そしてその扉の向こうには最愛の妻と、俺の新しい家族…俺の子供が居る。
深呼吸をして扉をノックする。
「どうぞ。中に入っても構わないですよ。」
エドガーのばあやが優しい声で俺を出迎えてくれた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ!」
白い柔らかい布にくるまれた赤ん坊はまだ目は開いていないが布から出している小さな小さな手をちまちま動かしている。
俺の顔が瞬く間に緩むのを感じた。
「さ、どうぞ抱いてやって下さいな。私は後片付けをして参ります。浴室を借りますよ。」
そう言ってばあやはたらいやタオルなどを他のメイドと共に下に下ろしに行った。
「セリス、よく頑張ってくれたな!」
俺はセリスに声をかけながらそっと頭を撫でた。
「ふふふ。中々この子が出て来てくれないからもうダメかと思ったわ。だって丸一日かかったのよ…。」
セリスは苦笑いしながら俺に本音を吐いた。
「でも、こうして無事に産まれて来てくれて良かったわ!」
セリスは俺が抱いている息子の頬を人差し指で軽くつつきながら安堵の表情を見せた。
「本当にお疲れさま。そしてありがとう…。」
「そうだ!ロック…今年の誕生日、お祝いできなくてごめんね…。」
セリスは急に思い出したように俺に謝ってきた。
「何言ってんだよ!今日は俺には十分過ぎる誕生日だよ!セリス、今年の誕生日は生涯二度と無い最高の誕生日だ!家族が増えた記念の日が俺の誕生日だぞ!最高だよ!」
「そう?でも、考えたら凄い事よね。自分の子供が同じ誕生日なんて!」
セリスの表情が一気に明るくなった。
俺たちは暫く我が子から片時も目を離さず「観察」の状態になっていた。
「目に入れても痛くない」とはまさにこの事だろう…。
アッシュブラウンの髪の毛は俺譲り。
高い鼻はセリス譲り…
そして、ちょっとズルそうな口元は俺にそっくり。
見れば見るだけ可愛くて堪らない。
そして俺のニヤケた顔も元に戻らない。
「ねぇ、この子の名前は前に決めてあった通りでいいのよね?」
「あぁ。絶対に俺はあの名前が良い。セリスは?」
「私も、あれ以外思いつかないのよ。それにこの子にはぴったりだと思うの。」「だよな…。じゃあ、この子はレオ…レオ・コールだ!」
俺たちは数ヶ月前から産まれて来る子供の名前を考えていた。世話になった人の名前を貰おうかとか、思い出の中で生きている人達の名前を貰おうとか、自分達で考えて出してみたり迷いに迷った。
ある時二人が同時に出した名前があった。それがレオだ。かつての帝国のレオ将軍を思い出したのだ。
彼は帝国の人間には思えない程、人に誠実で思いやりがあった。そして強かった。