□過去拍手文□
□只今彼、妬いてます
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「兄ちゃん」
神楽から話し掛けてくるなんてめずらしい。
「なあに?神楽」
まあ、俺から話すことのほうが少ないかな。
「今日は帰るのどんくらいになるネ?」
「夕方には帰るけど、なんで?」
「今日私帰るのちょっと遅くなるアル。鍵渡しとくヨ」
「・・・まじで?」
「ウン」
「・・・・・・りょーかーい」
***
「ねえ阿伏兎」
「あん?めずらしいなアンタから話してくるなんて」
「今日さー一緒に帰ろ」
「悪いが今日は予定が入ってんだ」
「まじで?なんなのみんな」
「なんだよ今日のお前さんいつになくさみしがりやじゃねえか。なんかきもちわるい」
「阿伏兎死にたいんだ?」
「まさか」
まさか阿伏兎まで予定があるなんてなー。
別にいいんだけど
いいんだけどなんかなー。
***
「おーい阿伏兎!!!待ったアルか」
「まあな」
「おいおい阿伏兎分かってないアルな。そこは嘘でも待ってないって言うものヨ。だいたいな、普通は学校違うなら男が女を迎えに行くものネ。わざわざでむいってやってんだヨ」
「あーあーわかったわかった。悪かったって。はやく行こうぜ」
この男はいつもこんな感じだ。
なんか話聞いてんのか聞いてないのかは知らないが、いつだって適当にあしらってくるって言うか。
それが神威がこいつを気に入る理由なのかな。
進みだした阿伏兎の後ろに走ってついていく。
「ねー阿伏兎。アイツ学校でなにやってるアル?」
「あー?だいたいは・・・うん、寝てるな。机か屋上で。それか携帯いじくってるか、ぐらいか」
「・・・友達いんのか、それ」
「まあ、俺ぐらいかな」
「・・・・・・」
「女にはモテてるみたいだがな。イマイチどこがいいのかわかんないがね」
「同感ヨ」
阿伏兎と私はどこか似てると思う。
まあ、あいつとつるんでたらこうなっていくのかな、なんて。
でもこいつとは結構気が合うから、居心地が悪いことはない。寧ろ、いいほう、かな。
あいつの気持ちがわからないでもないな。
「おい、譲ちゃん。なんにするのか決めてんのか」
「なんにも。そのためにオメーがいるんダロ」
「・・・。じゃあ幾らもってきてる?」
「三百円」
「何買うつもりだよおまえ。もうちょっともってこいよ」
「・・・・・・阿伏兎」
「なんだよその目は!出せってか!俺に残りの金出せってか!?」
「いいじゃん!共同で買いました、みたいにすれば!そしたらほら、阿伏兎も三百円特するアルヨ!二人で一つにしよーヨ」
「明らかにそれ、俺が損するじゃねーか!」
そうこうしゃべっているうちに、いくつか店の並ぶ街中に到着。
阿伏兎のお金を合わせて一万三千三百円。
かわいいものが並ぶ店や綺麗に着飾ったマネキンのいる洋服屋なんかを見ながら通り過ぎていく。
何にも考えないで来たはいいが、それから選ぶっていうのがいちばんしんどい。
なにがいいのかなんて、わからないし。
「阿伏兎ー。お前ずっと一緒にいるんダロ。なんか適当に買ってこいヨ。私待ってるから」
「それだったらお前さんのほうがわかるんじゃねーのか。兄貴の過保護うけてるだろうが」
「過保護受けてても欲しいもんなんてわかんねーんだヨ。おまえ男だろ。阿伏兎が欲しいものでいいヨもう」
「なにめんどくさくなってんだよ!おまえが言い出したんだろ!兄貴のプレゼント買うから一緒にきて欲しいとかってよぉ!こういうのはもう無難でいいんだよ。ケーキとか好きだろ?」
「ケーキはダメネ。新八が持ってきてくれるアル」
「んだよもう!」
阿伏兎が怒っている傍で、ふと神楽が立ち止まる。
「阿伏兎ー。あれがいいヨ。」
指差されたほうを目で追ってみる。
そこには黒地に金色の竜が控えめに描かれている、浴衣だった。
「ねーねーお嬢ちゃん。あんた値札見えてる?」
「一万二千八百円」
「ほとんど俺の金使う気じゃねえか!」
「だって良く見てヨ阿伏兎。あれ浴衣と帯びと扇子がセットアルヨ!しかもいまなら狐のお面つきアル!かなりお買い得じゃね?今しかないヨ」
「え?なにが?ってオイ!え!なに包んでもらってるんだよ!あぶさんまだいいとか一言もいってないよ?オイ!このすっとこどっこい!!!」
***
「見てヨ阿伏兎!あのお店ごっさ綺麗に包んでくれたヨ!良かったネ」
「そうだねよかったねー」
「早く帰ろうヨ」
「・・・。あのさ、やっぱりお前ら兄妹だよね」
お財布の中身を涙目でみつめながら笑っている阿伏兎を無視して帰る足を速める。
あいつは私が帰ったときできるだけ一人にならないように、とかいって学校の午後の授業をサボって家に帰ってる。
もう寂しい思いはさせない、だなんて。サボってるのはただめんどくさいだけだろうけど。
それもこれも、全部阿伏兎から聞いた話。
そんな話を聞いてしまったら、緩む頬を抑えられない。
きっと奴は、今もひとりで待ってるだろうから。
***
「・・・暇なんだけど」
神楽も阿伏兎も今日なんて日にどちらもいないなんて。
することもないから、なんてぶらぶら街をあるいても、楽しそうに通り過ぎていく人々にイラッとするくらいだった。
そこでふと兎のかわいらしい髪ゴムが目にとまった。
・・・これ絶対神楽似合うよ。
そう思ったらまあ、買うしかないわけで。
ありがとう、とよろこぶ笑顔が浮かんでくる。
「んー?」
包装してもらったのを受け取ると、見たことのある二つの影を追いかけた。
それは
今日は予定がある、なんて言ったはずの、神楽と阿伏兎。
え?
なにやってんの?
楽しそうな(阿伏兎は涙目の気がしないでもないけど)二人を見て、一層笑みが深まった。
***
「早くしないと置いて帰るヨー阿伏兎」
「はいはい。はしゃぎすぎなんだよおまえさんは」
「神楽、阿伏兎、楽しそうだね」
その声を聞いたとたん、二人の顔色が変わった。
「俺も仲間に、入れてくんない?」
「に・・・にいちゃん」
「神楽ー阿伏兎みたいなのがすきなの?ずいぶんと楽しそうじゃん」
「嫌いじゃないアルな」
「阿伏兎。ちょっと話があるんだけど。裏に来てくんない?」
「オイオイ勘弁してくれよ。俺どんだけ苦労してると思ってんだよ。」
「大丈夫大丈夫。ちょっと殺すだけだから。安心して」
「何が安心できるんだよ!言ってること分かってんのかコラ」
神威がひとつため息をついた。
「さみしかった」
弱音もそんなにすぐはくようなやつじゃない。
そんな神威が素直に言ったことばにおどろいた。
「にいちゃん、ごめんね」
だからそのさみしさをあたためられるように、精一杯の愛を込めて、笑った。
「かえろう」
わたしたいものが、あるんだよ
***
「にいちゃん、座って座って!」
「なんで阿伏兎までいるのー?」
「お前の妹にものすごいこきつかわれたんだよ。こんぐらいいいだろうが」
「にいちゃん」
「おたんじょうび、おめでとうネ!!!」
神威は笑顔で細まった目を開けて、それからまた、優しく笑った。
差し出された蒼い綺麗な包みを、ゆっくりと、壊れ落ちてしまわないように、慎重に、丁寧に受け取る。
「絶対にいちゃんに似合うと思ったアルヨ。阿伏兎と二人で買ったのヨ」
ああ。
大事な用って、このことだったんだね
「ありがとう神楽。阿伏兎も」
やっぱり君は、俺の太陽だ
その笑顔、ひまわりみたいな君をみるのが、なによりのおくりもの。
「にいちゃん!はやく着てみてヨ!!絶対似合うヨ!!!私が選んだんだから当然ヨ」
「うん」
だめだなあ
顔がほころんでしかたがない。
「神楽、おいで」
呼ぶと当然のように近くに寄ってくるから、ぎゅうっと抱き締めた。
「神楽かわいい」
「・・・セクハラネ」
「ね、ちょっとちょっと」
くすくすと笑って神楽を膝に乗せ、神楽の髪をとく。
それから自分と同じみつ網を作って、買ってやった髪ゴムでとめる。
「神楽へのお返し」
するとほらやっぱり、
「んきゃあ!ありがとうおにいちゃん!!!」
そういって、わらってくれる。
***
「あの・・・阿伏兎さん?この状況・・・・どうしたらいいんですか僕。帰ったほうがいいですか」
「俺も迷ってたところだ」
「なんであの二人あんなにイチャイチャしてるんですか。いづらいんですけど。ケーキどうしよう」
「ああ。ケーキか。おまえさんも大変だねぇ」
「いえ・・・僕、神楽ちゃんがあんなもの帰るほどお金もってるようには思えないんですけど・・・もしかして」
「・・・あの兄妹にはやられるよ。ほんと」
「・・・ご愁傷様です」
「ま、いいんだよ。あの二人の顔みれればよ」
目線の先には無邪気に笑う、ふたりのすがた。
「そうですね」
それはいつのまにか僕達にも、笑顔をつくらせる、兄妹の魔法。
***
おまけ
***
「んきゃーーー!!!にいちゃんかっけーアル!ヤバイヨ!鏡見たカ!?」
「そんなの神楽もじゃん。やばいよかわいすぎだよ」
「アネゴに借りたアル!兄ちゃんにもらった髪留めもしっかりつけてるアルヨ」
「ん、ばっちし」
「ほら、銀ちゃんも新八もはやく!祭り行くアルヨ!」
「阿伏兎、ちゃんとついてきてね」
「「おなかすいてるから」」
逃げようとする三人をしっかりと捕まえて、君の手も繋いで、さあ
たのしいお祭りのはじまりだ