□過去拍手文□

□とある朝のできごと。
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「ただいまヨー」
「・・・・・・」
「あー兄ちゃん帰ってたアルか。」

「・・・・・・」
「・・・・・・」


「おーい兄ちゃんどけヨ。邪魔で家入れないヨ」
「・・・・・」
「おいきいてんのかバカ兄貴!学校遅れるだろうが!!!」
「ねえ神楽」
「?」




「朝までどこいってたの?」





「・・・・・・ああ。」



***









「ああ、じゃないでしょ。どーゆーこと?」
「別にいいだろーが!どーせ兄ちゃんだってさっき帰ってきたところダロ」

遅れるって言ってんだよ、と怒りながら神楽は神威を押しのけて家の中へ入った。
それから颯爽と学校の荷物をまとめる、といっても食べ物ばかりだが、神楽の姿に神威は笑みを深めた。


「神楽」
「なーに」
「ここ座って」

神威が少し薄汚いソファを軽く叩く。

「今準備中ネ。忙しいから無理アル」
「・・・神楽さ、」
「んー?」
「どこにいってたの」
「べーつにー」
「かぐら」
「ハイヨー」
「ちゃんと答えて」
「・・・うっさいナ」

準備が済んだのか、神楽は立ち上がってせのびをした。


「ほいじゃあ私学校行くネ。にいちゃんはどうせ今日も帰らないんダロ。夕飯作らないでい「神楽」」




「いい加減話きいて?」




いつもの笑顔に変わりはないが、なんというか、殺気を感じる。
さすがに神楽もしぶしぶソファに腰掛けた。

「で?」
「昨日は学校終わってから暇だったから総悟が部活してるとこ見てたアル。んで、終わったから一緒に帰ったネ」
「で、なんで帰ってこないの」
「そのあと、どうせ兄ちゃんいないから夕飯買って帰ろうと思ったネ。そしたら総悟が、みんなで鍋だから一緒にたべていい言ったネ。だから遠慮なくいただいたヨ。でー、みんなと取り合いしてたらいつのまにか寝ちゃってたネ。朝起きたらみんな目がまん丸ヨ!マヨラー起こしてくれなかったらあれ絶対遅刻してたな、うん」

「・・・そう」

「・・・・うん」


「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」



「何だヨ!分かったアル!悪かったヨ。私が悪かったアルな。すいませんでした」
「兄ちゃん神楽がそんなに尻軽だとおもわなかったんだけどな」
「うっせーヨ誰が尻軽だヨこのヤロウ」
「はーにいちゃんショック。これからどうやって妹に接したらいいかわからない」
「じゃあしゃべんナ」
「あー傷付いちゃったよ今のー。ぶろうくんはあとだよお兄ちゃんは」
「・・・わかりにくいアル」


神楽はいつもみたいに笑っているくせに大袈裟な仕草で胸を抑える兄の姿に大きくため息をついた。
もう八時を過ぎている。
こりゃ遅刻だな、と内心でまた大きくため息。
こうみえてもいままで遅刻したことはなかったので、ほんのちょっと残念。
でもまあ、なによりこの状況からはやく抜け出したいのだけど。


「だからごめんって言ったダロ。だいたいこうなったのも全部オメーのせいなんだからナ」
「ちょっと、ひとのせいにしないでよ」

後半は小さめに言ったつもりだったけど、聞こえてたのか。やっぱり神威には敵わない。
はやく終わらせるつもりだったのに、神楽の口にはほんの少し、痛みと寂しさがうかんでいた。


「兄ちゃんが!オメーが毎日毎日帰ってこないからいけないんだヨ!」

神威は笑顔を作るのをやめ、神楽の寂しい顔に気付いた。

「いつだって、夕飯作って待ってても帰ってこない。兄ちゃんの分も私が食べてるネ。それすごく寂しい。夜だって、一人でテレビ見るのも、お散歩するのも、とってもつまらないアル。」
「・・・・・・うん」
「兄ちゃんなんかいいアル!毎日女の匂い付けて朝ひょっこり帰ってくるんだからナ。ひとりぼっちで寂しい思いなんてしたことないんだろ!バカ兄貴」

神威は、泣くかな、と思いながらずっと神楽の顔を見つめていたが、涙を流すことはなかった。
ただ唇を噛み締めて、うつむいて立っている姿は、泣き叫ばれるより、ビンタをされるより、すごく痛々しかったけれど。

「それに比べて総悟は優しいアル。絶対私一人にしないネ。」

それをきいて、神威の顔が、わかりにくいが、険しくなった。
神楽はほんの少しいつもより浅い笑顔をした神威の顔を見下ろして、にんまりと笑った。
「私もううんざりネ。私総悟たちに居候させてもらうヨ」


神楽はさっき用意したかばんを取り、舌を出して鍵はいらないからと神威に軽く投げつけて玄関を出ようと扉を開けた。


「・・・あれ」


目の前にはさっきソファに一緒に座っていたはずの兄のすがた。

「え?なんでドアの向こうにいるアルか。さっきソファにいたダロ!?え?マジック使えちゃったりするアルか?瞬間移動的なことできちゃうアルか!?」

それをまあね、なんていいながら受け流す兄は玄関の出入り口をふさいでいる。


「俺さ、」


なんか顔が近すぎるような気がするけど、笑うのをやめた兄のことばはいつだって真剣にうけとめることにしていたから、どんな小さな声でも聞き逃さないようにみつめた。


「今日は夕御飯ハンバーグがいいから」



「・・・・・・・」
「はんばーぐ」
「・・・・・・・・つくってもらえば?」
「神楽のじゃないとやだ」



だけどこれも、今までに何度もしたことのある会話だった。
わかっていても、期待して、実はちょっと嬉しかったりして、気合を入れてつくったりした。
それがオメーの口に入ったことは、なかったけどナ。


「はいはい。でも家にはいないかもしれないから」
「ごめん」
「なにが」
「今日は絶対帰るから」
「いやだから」
「一緒に食べようね、神楽」
「あのね、「今日は一緒にかえろっかー。それで、一緒に晩飯の材料買って、俺も作るよ。それでそれでー、一緒にテレビみて、一緒にお風呂入って、一緒に寝よっか」」
「オイ!おかしいヨ絶対!途中からなんか絶対おかしくなったアル!それに「あ、ちゃんと迎えに行くから教室で待っててね」」




「・・・話聞いてヨ」



「ということだからお兄ちゃんも一緒に登校しちゃうよ」
「早くても五時間目からしか行ったことないのに!?キセキアルな・・・」
「失礼極まりないよね、それ。まあいいや。手つなごー」
「ヤダヨ!調子のんなヨ!!だいたい私いいって言ってないからナ!今日も総悟のところで夕飯食べさせてもらうネ!」
「神楽ったら照れちゃってー。ホントはお兄ちゃんと御飯食べたいくせに。ねえ?」
「ねえ?じゃねーヨ!手え離せヨ!」
「いいじゃん兄妹のスキンシップだよ」
「分かったヨ!わかったから手、離すアル!!!」










***


{しかし神楽は、嬉しさを隠し切れず、繋がれた手をみつめて笑っていた・・・「笑ってねーよ。それはお前の妄想だろィ?」

「ん?まーね」
「・・・・・・。で?」
「だからね、そういうことになったから、神楽はお宅にお邪魔しないからね」
「・・・・・・そう言って帰ったことないってオメーの妹さんはおっしゃってましたけどねィ」
「大丈夫だよ。絶対帰るから」
「そんなこといってまた妹泣かせるんじゃねェのかィ?」
「悪い虫を前に黙ってるほどお人よしじゃないんだ。もう寂しい思いはさせないよ」
「極度のシスコンじゃねェかィ。こりゃ神楽も苦労するなァ」
「ちょっと神楽ってよばないでくんない?あのね、俺はもう神楽を一人になんかさせないよ。ティーヴィもデーブイデーもバスタイムもスリーピングタイムも一緒だからね」
「それお前が変態って事しかわかんねーよ。つかわかりにくいんだけど。ちゃんとしゃべってくんねェかィ」
「あ、神楽だ。それじゃあもう俺たち帰るからね。男一人汗だくになりながら汚く部活がんばってね」
「オイオイ無視かィ。しかもなんなんだよその悪意に満ち足りたがんばってねは。まじうぜぇ」


「あ、そうだ」
「?」

神威は振り返って不機嫌そうな顔をした総悟に笑いかけた。


「次神楽が朝に帰ってきたら、君知らない間に地獄に逝ってるからね」
「・・・・・・・」






それから神威は神楽のほうへよっていき、おでこに軽くキスをした。
あ、殴られてやんの。
それでも肩を並べて歩いている時の神楽の顔にいつものさみしさは浮かんでいなくて、とっても優しい笑顔だったから、なによりも、へらへら笑ういもおさげにむかついた。


「面白いじゃねえかィ。次は殺すも何も、一生うちで預かるからよォ、お兄さん。」



強気になって、ふたりのせなかにひとつ、言い残した。










***


くやしいな

さみしくって、怖くって、ひとりぼっちを紛らわすため、
私だって、一生懸命だったのに

君が言うとおり、
繋がれた手は、本当に、うれしかったよ

このままじゃ、君の思い通りだね

結局私は
君のことが、すきですきで、たまらないんだ






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