□story□
□僕らの未来は
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つまんない。
神楽は熱心に声を上げながら見ているけど。
・・・ベタベタじゃないか、この昼ドラ。
どこでもある話じゃんか。
何が面白いんだか。
そうこう考えているうちに、いつの間にか終っていたらしく、神楽が俺の隣に座ってきた。
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃんもいつか、結婚するアルか?」
・・・・・・・え。
「さあー。わかんないよ」
何なんだこの子は急に。
「そっかー。いつかお兄ちゃん結婚しちゃったら、私ごっさ寂しいネ・・・。」
本当に神楽は昼ドラとかに影響されやすいんだから。
でも。
もしも神楽が、って考えたら、なんかちょっとなー・・・。
***
「夜兎の娘だぁぁぁッッ!」
神楽は一人で散歩に来ていた。
この光景だって、いつもと何もかわらない。
でも変わった点が、一つだけ。
「神楽ちゃん、だよね」
神楽の前に一人だけ、女の子が立っているではないか。
ただその女の子の表情は
怒っているのかーー・・・?
「ウン!!!お嬢さん名前なんて言うネ!?一緒に遊ぼうヨッッ」
嬉しさのあまり神楽は手足をばたばたさせながらはしゃぐ。
が
「神威くん、って、お兄ちゃんなんだよね?」
「そうヨ?」
「かっこいいよね?」
「そうヨ!!!お嬢さんよくわかってるアルな!?お兄ちゃんいつもなんだかんだ言ってごっさ優しいネ!!!私大すきアル」
「私も、すき」
「・・・・・え」
・・・・・。
神楽の胸がドクンと波打った。
「そ、か・・・。」
まだまだ遠い話だと、思った。
いやいや。
実際遠い話なのだが。
兄のことを気にしている子が近くにいるだなんて。
今の私の世界は、お兄ちゃんしかいないのに・・・
「だけどさ」
見知らぬ少女は口を開く。
「あんたすごく、邪魔なんだよね。」
それと同時に石が飛んできた。
あまりにも急だったために、さすがの神楽でもよけきれない。
「いつもベタベタしてさ。本当は邪魔だって、思われてるんじゃないの?」
昼ドラで見た事あるぞ・・・。
これはアレか。
”しっと”ってやつか。
それでも容赦なく飛んでくる石に、神楽は涙をこらえる。
彼女の言う通りかもしれない。
私の世界には、傍に居てくれる人がお兄ちゃんしかいなくて、だからどんなときも一緒にいたけど。
一緒にいてくれたけど。
すごく、邪魔かもしれない。
石を防ぐ傘を持つ手を下ろしてしまった。
すると神楽の顔に、胸に、手に足に、容赦なく傷をつけていく。
痛い
痛いヨお兄ちゃん・・・
「なに、やってるの」
不意に現れた神威の顔は、いつものように穏やかで。
だけど
その目の奥には、怒りと憎しみが宿っていた。
「俺たちを一人にした奴らが、勝手に俺らの世界に入ってこないでよ。」
それだけいって神威は神楽をすり抜けた
が
少女の方へ傘を振り下ろそうとする神威の手をつかんだのは、神楽だった。
「ダメヨ、お兄ちゃん。殺したりしたら。ダメヨ・・・・・。」
神威は神楽の顔を見て、傘をおろして神楽を抱っこした。
神楽に向ける優しさは、底知れぬほどのいとおしさで溢れていて。
「また俺らの世界に入ってきたら」
神威はにっこり笑って言う。
「神楽が止めても、お前を必ず殺すから。」
震えて声も出ない少女を後ろに、神威は神楽をしっかり抱きしめる。
「お兄ちゃん」
「なに?」
「私お兄ちゃんの邪魔者なんでショ?気付かなくてごめんなさい・・・」
あの子に何を言われたんだか。
またすぐに、他人の言う事をそのままに精一杯に受け止めちゃって。
結局傷ついてんのは、神楽じゃないか。
「それは違うよ」
「俺の世界には、神楽しかいないから」
***
僕らの世界を作ったのは、
他でもない、人間だった。
でもね
この世界は、ぼくらにとって
本当に
大事なものだと知っているから
だから
お願い誰も
入ってこないで。触れないで。