□story□
□眠れない夜は
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今日も雨。
いつもは眠ったら時を忘れて、ずっと寝ているはずなのに。
今日だけは、そうはいかない。
なぜだかはわからないけど。
不安になって部屋を出る。
こういうときは決まっていくところがある。
静かに扉を開ける
が、
神楽は目を丸くあけて小さく叫んだ。
「お兄ちゃんが、いないアル!」
またまた不安になった神楽はたまらなくなり、居間に戻ってキッチンや押入れ、しまいにはゴミ箱をあさり始めた。
「どこアルか!?お兄ちゃんッッ!!!」
半ば半べそになりながら探す。
いない・・・いないネ!!!
それから玄関の傘たてから傘を抜いて扉をあける。
外には一面に広がる、闇。
震えながらもゆっくりと、確実に一歩ずつ踏み出した。
まるで闇に引きずり込まれるような恐怖に耐えながら。
「怖がりの癖に、夜中に家出?」
上を向くと、屋根の上でにっこり笑う神威の姿。
「おに・・・ちゃ・・!!!」
安心すると涙があふれてとまらなくなる。
「どうしたの?家出す「お兄ちゃんを」」
「お兄ちゃんを探してたのヨ。」
・・・・・・・・え?
「お兄ちゃんが消えちゃうんじゃないかと思って、ずっと探してたのヨ。
居間とか押入れとかゴミ箱とか・・・・・一生懸命探してたのヨ!!!」
「・・・・俺は犬かよ・・・?」
そういいながら神威は神楽を屋根の上に引き上げる。
しぱらくたっても泣き止まない神楽をバカだなあ、と言って隣に座る神威はそっと抱き寄せる。
「・・・ねえ神楽。神楽はあの青い空がいとおしくてたまらないんだろ?」
「ウン。あの空の下でいつか必ず走り回りたいネ!!!」
「なんで?なんでそこまであの空に、あの太陽に執着すんの?俺たちを、殺すんだよ?」
少し脅してみたけど、泣き収まって、やっぱり神楽はにっこりわらう。
「あの空は、たくさんの命を作ってきたアル!!!それってスゲーことヨ。それに空は、生き物に元気をくれるネ!」
「だけど俺たちは、こんな夜の空しか眺められない。」
「関係ないヨ!」
「どんなに毎日雨が降っても、夜の月しか見れなくっても、必ず太陽は顔を出すネ。たとえたったの一日でも、一時間でも。傘越しだって私は、そんな太陽に元気もらうアル!!!」
神威はそういう神楽をいとおしそうに見つめる。
決して手の届かないもの。
わかっているのに彼女は、
諦めないんだ。
俺たちと違って。
神楽知ってる?
月は太陽の光で見えてるんだよ。
だから俺たちは知らないうちに、太陽の光を浴びていたんだ。
しとしとと、雨が降る。
きみはもう、ゆめのなか。
きみのせいだよ。
きみが、そんな事を言うもんだから、
ちゃっかり俺も、
あの蒼い空がほしくなってしまった。
神威は神楽が寝ているのを見て、雨にぬれないように傘を立て、ゆっくりと眠りについた。
***
手が届かないものは、全てニセモノなんだと決め付けていた。
君さえこの手の中にいてくれればいいと、思っていたんだ。
決して裏切ったりしない君はまるで、
どんなに曇っていようとも、
雨しか降らないこの町にでも、
昇ろうとする、太陽そのもの、だったんだ。
だから、
僕らを殺す、太陽さえも、
愛しいと思えてしまった。