□story3□

□ウサギアイ
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どうしてこうなったの
止めて・・・

止めて止めて!

昔愛さなかった分、今愛してくれればそれでいいから
昔私をつきはなした分抱きしめてくれれば

止まるから




『ウサギアイ』




ここはどこ?
私はどうしてこんなに赤くて生ぬるい、それはまるで罪のにおいのような鉄の味がする血にまみれているんだろう。
そして
それが快感だと思うのは、何故。

「神楽・・・」

お兄ちゃん、どうして私を昔からずっと見てはくれないの?
どこまで強くなったら私を愛してくれたの?

「神楽!止まれ!神楽ァァ!」

銀ちゃん、止まれってどういうこと?
私は今、ずっと立ったままで動けないでいるのに

「神楽ちゃん、だめだ!自分に負けて一番苦しむのは神楽ちゃんだよ!」

新八・・・自分に負けるって?
私は自分に失望し続けて苦しんでるままなのに

ねえ神威
その目は何?

まるで昔の私みたい。
獣化したような兄の目を悲観視して、だけどどうすることもできないときに、私もあんな蒼い目をしていたんだろう。
あのとき神威が私を見て叩いたけど、今じゃその意味もちゃんとわかる。
そんな目を向けられて、腹が立たないわけがないね。

ああ
もう止まらないわ
血が騒いで
力が漲って仕方がない

奥のほうから声がする
ウサギのような、かわいらしく笑う女の子

ちがう
それは猫をかぶった誰よりも残酷で非道で悪魔のような

「殺せヨ、すべて」

夜兎の、私。



***



どんなときも俺を照らす太陽はひとつだけだった。
それがすべて壊れたのは、俺が夜兎を選んだから。
俺にとって簡単な答えが出た日、神楽にとってあまりにも残酷な痛みになったに違いない。

俺がそばで背中をさすってやらないと、神楽は泣かない子だった。
「泣いていいよ」って笑ってやらないと、ずっと顔を曇らせながら笑うような、そんな子。

だから俺は、お前に泣かないことを強いた。
泣いていいよなんて言ってやらなかったから。

だからお前はそんなに、お兄さんたちに依存しているんだろう。
簡単に泣くことを許可してくれる優しいお兄さんたちが、神楽の支えとなってしまった。

俺は、
神楽に強くなんてなってほしくないのに。
お前がこんな狂ったような強さを手に入れる必要なんてどこにもないんだ。

「あーあー。これお兄さんたちのせいだからね」
「はぁ!?」

非難のまなざしを向けてくるお兄さんの体ももうボロボロで、荒く息を吐いている。
神楽に邪魔されたとはいえ、少しの間は戦ったのだ。俺の体も傷だらけ。

でもそんなの構わず神楽はゆっくりとこちらへ歩き始めた。
一歩一歩。ゆっくりと。

俯いた顔から声が聞こえた。


「私の大事なものが全部なくなっていく世界なら」



「壊してやる」


大きな目はさらに大きく開かれ、口元は異常なほどに笑っている。
さきほどまでの躊躇など一切なく、神威への一撃はひどく重い。
こんな強さを手に入れた妹と戦うことに、ほんの少し胸が躍っているなんて最低な兄だとつくづく思う。
かと思うと、今度はなんとお兄さんたちのほうへくるりと方向を変えた。

「かぐら、そっちは・・・」
「・・・壊してやるネ」
「え・・・」

だけどこれは予想外。

神楽、それは違うでしょ
だってそれは今のお前の宝物。
壊したらお前はきっと。

方向を変えた神楽の背中に傘を振り下ろす。
神楽はぐるりとこちらを向いてそれを受け止めた。
何その顔、軽くホラーなんだけど。

「神楽、お前の相手は俺がしてやるよ」
「・・・・・」
「お前が憎いのは、俺でしょ?」

それから神楽の攻撃の一切は俺に向かう。
どれも普段の力からは想像がつかないぐらい、まっすぐ、夜兎の力だった。
これで手を抜けば確かにやばいかもしれない。
神楽がもし夜兎を封じ込めずに本能のまま戦っていたら、見込みある強さになったのだろうか。

傷をつけあい、お互いから血がにじむ。
だけど俺もお前も笑ったまんま。
他人から見たらどれだけ気味の悪い戦いなんだろう。

距離を取ったまま神楽を眺める。
小さかったころに父親に見せた殺意が、神楽をどれだけ震いあがらせたのか今ならなんとなく想像がついた。

「ねえ神楽、神楽はお兄さんたちを守るんじゃなかったの」

ぴくり、と動きが止まった。
笑っていた神楽の顔は一層深くなったものの、なんというか、さっきより気持ちのコントロールがカオスになったような戸惑いが見える。
神楽が俯いて少し経った後、小さくくすくすと笑う声が聞こえ始めた。

「神楽・・・?」

顔をのぞこうとした途端、神楽はまた方向をぐるりと変えてお兄さんたちのほうへ向かって走っていく。
傘を振り上げ、奇声のような笑い声をあげながら。

なんで
そんなはずはない。
妹相手に、こわい、なんて。

「・・・!」

違う
怖いわけがないんだ
だって、

神楽がお兄さんたちに接触する寸前で神威の傘が神楽の傘をはじいた。
はじかれた傘を目で追った後、神楽は今度、手でこぶしを作って神威の顔を目指す。
それをするりと交わした後、神楽の顔をぐっと掴んで自分の顔の前に持ってきた。

「神楽、それはさすがにダメでしょ」

ばかだな神楽は。
神楽の顔は血と涙で濡れていて、それを隠すように笑っていた。
こんなときでさえ泣いていることを隠そうとするのは俺の罪だね。
優しく神楽の涙を拭きとってやると、神楽はビクッとして後ろへさがろうとした。
それをさせないように手に力を加える。

「こんな顔してまでお兄さんを殺そうとしなくても。っていうか、お兄さんを殺せなんて言ってないよ、俺」

必死に抵抗を続ける神楽に、もうそろそろいつもみたいに戻ってほしくて。
かわいそうな子
寂しさを押し殺して我慢し続けて
そしたら大切なものを自分の手で失くしてしまいそうになるなんて。

「お兄さんたちを殺して傷つくのは、お前でしょ、ばか」

さらに神楽はビクついて、強靭な力も今ではほとんど失われていた。

ごめんね
お前には強くなってほしくなんてない

これからもずっとそう。

さっきだってそうだった
お前が強くなったって途端、俺は兄じゃなくて夜兎になった
それは
紛れもなく本能が疼いた証拠。

俺が強くなったのは、原点はお前を守ることだったから
すべてを捨ててきた俺の決意がぐらつく

俺だって
俺の手でお前を殺したら、一番傷つくのは俺、なんだと思う。
だから


「強く、なったりしないで」


神楽をそっと抱きしめる。
兄として、うまく愛してやれなくてごめん
夜兎っていうレッテルを一番恐れていたのは俺かもしれない
お前は誰かを自分の手で失ったりしないで

どこにいたって
どんなに血に濡れたって
やっぱり夢に見るのは
お前のばかみたいな優しい笑顔だったから

「ごめんね神楽。怖がりな俺を、許して・・・」

俺の前じゃなくていい
だけど
お前が悲しい時があるなら
お兄さんたちの前で声を上げて泣くんだよ
お前がうれしい時があるなら
俺には見せなくていい
お兄さんたちの前で明るく下品ってぐらいの声を上げて笑うんだよ


「今日だけは俺が、わがままきいてあげてもいいよ」
「・・・・・・」
「言いたいことは今のうちにいいな」
「・・・殺す」
「・・・」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・」
「うん・・・」
「殺したく・・・ない・・・」
「うん」
「置いてかないでヨ・・・」
「・・・・・・大丈夫だよ、おにいさんたちなら」
「ひとりは、怖いヨ」
「そうだね・・」
「お兄ちゃん、私のこと、嫌い?」
「・・・嫌い」
「・・・・・・知ってるヨ」
「バカみたいな強さを手に入れたお前なんて嫌い」
「・・・?」
「お前は、笑っててよ」
「え・・」
「そしたら、好き」
「・・・、にいちゃ」
「大好きだよ。ばーか」


顔を上げたお前の顔は
夢に見たこともないような
優しいあったかい笑顔だった


「兄ちゃん、ありがとう」



***


暗がりの中
何が大切で、どれを壊せばいいのかわからなくて
だったらもう全部
壊してしまえばいいんだと、自分の中の彼女は言った

それは
歯止めのきかない弱さだった

それでも私を照らすのは
不器用でばかなあなたの優しさ

本当は全部知ってるわ
だから今までやってこれた

ごめんね

あなたのせいで絶望しても
あなたの声は私を救う


***


ありがとうございましたー!紫苑さまリクの狂神楽ちゃんでしたが・・・
いかがでしょうか?
狂い方が足りなかったかもしれないですね汗
でも久しぶりの狂った神楽ちゃんバージョンは書いてて楽しかったです♪
まあありきたりなかんじのはなしかもしれないですが・・・汗
これからもよろしくおねがいいたします!

それでは失礼いたしますw

那月













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