□story3□

□HEY!BOY!
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*現代兄神




突然だけど
君の必死な横顔が好き
たまにひどくいらいらしても
いつかゴールで誇らしげに笑う

あなたの手は
彼を幸せに導いてあげられる魔法の手

私にはない
素敵な手



+++



つまらない。
誰もいない部屋の中でじっとテレビを見つめても、テレビの中の人たちは絶対に私には気づかないでひたすらしゃべり続けるだけ。
箱の中にはたくさんの人がいて楽しそうに騒いでいる。
いいなー私も入れてヨー。
まあきっと私が入ってもあんな会場ぐちゃぐちゃにするぐらいだけれど。

(それってただの妨害か)

ふとテレビの横に目をやる。
そこには古びて誇りをたんまりと被った一台のゲーム機。
そういえば昔、神威がこれに熱中していてずっと家に籠りっきりの時があった。
そのとき私はひたすら神威の横に座って、神威がゲームの中の主人公を器用に操る姿を見ていた。
だけど彼だけは幸せなゴールを迎える前に神威の姿は消えてしまったから、彼の戦い続けるその時間は止まったままだ。

テレビの向かい側にあるソファから勢いよく立ち上がってそっとゲーム機の前にしゃがみ込む。
手を触れると容赦なく埃が引っ付いてきたが構わずOPENボタンを押した。
するとそこには神威が熱中していたゲームソフトがそのままの状態で入ったままになっていた。

「・・・ダメアルなーソフトが痛んじゃうヨ」

あのとき
私がコントローラーを握っているわけでもないのに一緒に手に汗をかいて、一緒にドキドキしたものだった。
新しい敵が出てきたら一緒に悲鳴を上げたりなんかもした。
上手くいかないときは、俺が素手でやったら一瞬で殺してやれるのに、なんて文句を言う神威がおかしくて笑って。

それがどうしようもなくおもしろかったの。

じっとゲーム機を見つめた後、ゆっくりとケーブルを探す。
ケーブルもコントローラーもそのままにされていて一緒に誇り被っていたのでそれを荒い息で吹き飛ばした。
本体を軽く叩いてテーブルにセットし電源を付ける。

まだ使えるのかな
彼はまだ痛む傷を背負ったまま
お姫様のもとには辿りつけていないのだ

だったら私がもう一度、
あなたをゴールへ導いてあげるわ

テレビ画面がぼうっと一瞬揺らいで、そのあと以前見慣れたスタート画面が現れた。
ずっとこのときを待っていたかのようにつづきからのボタンが点滅し続ける。
迷わずそれを選らんで少し待つと、そこにはやっぱりまだひとり戦い続ける彼の姿。

ずっと待っていたんだね
お姫様を助けられるその日をずっと
誰も自分を操ってはくれなくなってから
どれほどの時間悔しい想いをしてきたんだろう

慣れない手つきでそっと彼を走らせる。
たかがゲームにこんなに感情移入してしまうだなんて、なんかおかしい。
だけど彼は、幸せになれるはずなんだ。

少し歩いた後、彼がふと立ち止まる。
なにがなんだかわからなくて、画面をかぶりつくように見ていたら急にでかすぎる魔物のような怪物のような物体が彼にむかって吠えた。

「えええええええええっ!?まさかこれっボス戦アルか!?」

どれだけとなりで神威のコントロール捌きを見ていようとも、見るのとやるのとでは全く別問題だ。
しかも相手はいきなりボス。
おかしいだろこの展開!
あいつ絶対ボス倒せなくて飽きたんだ!

それでもとりあえず彼を動かしボスの足元へ走らせる。
剣を振りかざしても的外れな方向に振れて逆に攻撃を受ける始末。

「あ、ちょ、待つアル・・・」

そういう間にも彼は攻撃を受け続け、結局一分もたたないうちに錆びた床にへばりついてしまった。

「ああ・・・・すまないネ・・・」

何度も何度も繰り返したが、結果は同じ。
そのたびに彼は悔恨の念を込めた言葉を口にしながら倒れこむ。

「はあ・・・もう無理ネ!私には向いてなかったアル!!!」

だんだんとイライラしてきてソファにコントローラーを投げつける。
最初から無理な話だったんだ。
初心者が簡単にボスに手を出すもんじゃないな。
何回彼を死に追いやったことか。
もう本当に申し訳が立たないぐらい。

ソファに顔をうずめてごろごろと体を動かす。
ゲームってこんなに腹が立つもんだったっけ・・・?
これだとストレス解消どころかストレスの源にしかなってない。

大きくため息をこぼして目だけでちらりと画面を見た。
そこにはまた勝手に生き返って、動くことのできないまま立ち尽くす彼の姿。
その姿は放っておくにはあまりにも残酷で痛々しい。

低く唸り声をあげながら体を起こしてもう一度だけコントローラーを握りしめる。
私じゃ彼を幸せにできない。
走らせることや攻撃させることはできても、彼を死に追いやることしかできないなんて。
彼は死んでも死んでも生き返って、それでもお姫様のもとへ行こうと必死に戦い続けるから、だったら仕方ない。
私はあなたを、一生かかっても倒せないような敵の前へ運んで無防備に戦わせてやるしかできないんだよ。

もういちどボスの足元へ向かう。
最初よりは全然動きは良くなったものの、それでも彼は傷つき続ける。
ボスの体力のゲージが半分ぐらいまで減ったところで彼のゲージは尽きた。

「ああ・・・」

やっぱりだめか、とコントローラーを手放そうとした瞬間、するりとそれを奪ったのは、

「わー神楽超懐かしいことやってんじゃん」

彼を幸せにできる唯一のひと。

「なっ神威!!帰ってきたアルか!」
「うんーまあねー。ってかどしたの神楽。今さらこんなんして楽しいわけー?」
「うっうるさいネ!私はただお前が中途半端にやり残したゲームをクリアしてやろうと・・・」
「あ〜なるほど。主人公を幸せにしてやろうと思ったんだー?」
「ななっ!何言ってるネ!クサイこといってんじゃねーヨ!馬鹿兄貴!」
「えー?でも神楽昔いっつも言ってたじゃん。お兄ちゃんはあの人幸せにしてあげるためにがんばってるんだねーかっこいいねーって。」
「・・・覚えてないアル」

馬鹿にしたように笑う神威が憎ったらしい。
私が何回彼のために頑張って、何回彼を殺したことか。
笑えないんだヨー?
それくらい下手だったってことに今更気づいた。
それでも
やっぱり彼が、おひめさまと笑う姿が見たくて。

「もー!ばかにするなら返せヨ!私は絶対こいつをゴールに導いてお前の今までの苦労を横取りしてやるネ!」

彼の運命を左右するコントローラーを握った神威の手に自分の手を精一杯伸ばしてみる。
それをひょい、と交わされたことに本気でいらっとしたのはなんでだろう。
いつのまにかそこまで真剣になっていた自分にほとほとあきれる。

「神楽の腕じゃ無理だよー。見てたけど全然武器上手く使えてないじゃん」
「えっ!いつ見てたアル!?」
「んー?つづきから選択したあたりから?」
「ずっと居たんじゃねーか!」
「神楽へったくそだもんねー見てらんないよ」

神威が彼を操る権利を奪ったままずけずけと回って神楽の横に腰を下ろす。
ずっと見られてただなんてなんて恥ずかしいんだろう。
きっと顔がまっかっかになってるに決まってる。

ふと画面を見ると彼は私のときと同じようにボスに向かって走っていくが、なんだか私が操る時よりも希望があるような顔をしていたように見えてなんて薄情者なんだろうと思った。
だけどその半面で、ずっと幸せになる時を待ち続けた彼のゴールを心から祈る自分もいて。
ゲームの中の主人公相手にどれだけまじになってるんだろう。

だけどボスの体力ゲージが半分に減っても、神威の操る彼の体力は三分の二ぐらい残っていて。
さすがは昔ハマっただけのことはある、さすがの手捌きだ。
カコカコと音だけが響く部屋が不思議で、そっと神威の横顔を見る。

なんだ
お前だって真剣じゃないか
ただ彼の幸せのために
お姫様の幸せのために
真剣にかぶりついて画面を見つめるお前は、
昔の少年のまんま
何も変わっちゃいなかったんだね

「・・・やった」

その横顔から小さく呟かれたから画面に視線を戻したら、彼が倒れたボスの横でガッツポーズをしていた。

そう
君なら彼を、こんないともたやすく幸せにしてやれるんだ
私では導いてあげられなかった世界に
君なら一瞬で未来をこじ開けてやれるんだよね

「わあ・・・」
「ふふ、」
「・・・!?何笑ってんだヨ!」
「いや、よかったーと思ってさー。俺はねークリアできたときの主人公のしあわせなんてどうでもいいんだよねー」
「はっ!?酷いアル!ずっとともに戦ってきた仲間でショ!」
「ははっそういうとこだよ。神楽があんまりにも主人公に感情移入しすぎるからさー。ゴールした時にすっごい嬉しそうな顔するでしょー?俺はそれを見るために頑張ってクリアしてたの。」
「なっ!」
「ひゃー神楽顔真っ赤っかー」
「うるさいアル!馬鹿兄貴!」

神威の胸ぐらをつかもうとした瞬間、
テレビ画面から嫌な展開を予想させる不吉な音が鳴り響いた。

「「え・・・・・?」」

すると倒れたボスの亡骸から新しいボスが現れ高笑いをしている。

「え、ちょ!神威!!ボスのなかからまたボスみたいな顔をしたボスが現れたアルヨ!」
「ややこしいよ神楽。まじかー完全に油断してたーちきしょー」

神威がもう一度すばやくコントローラーを握る。
神楽はその横で画面をみながら彼と神威を必死に応援した。
さすがの神威でもすぐは慣れず、主人公が力尽きるたびに神威の頬がちょっと膨らんでおかしかった。

ああ
あなたは私たちに忘れられて
苦しい時間が止まったまま誇り被っていたというのに
私たちに
こんな優しい時間をくれたね

帰ってこない背中を追い続けるのに疲れて
あなたを見つけ出した私に
大好きな時間を返してくれたから

私たちもあなたに
止まった時間をゴールに導く

画面の中の彼はボスのボスを倒し、奥の階段を駆けあがっていく。
そこには彼を待ち続けた美しいおひめさま。
どうして囚われてしまったのかとか、小さいことは忘れたけれど、再開を喜ぶキスを交わす二人はとても美しかった。

「兄ちゃん」
「んー?」
「彼を幸せにしてくれて、ありがとう」

にっこり笑って神威を見ると、ほんの少し照れたような笑顔を返されたから、らしくもない姿に笑った。

「はー」
「?」
「神楽にそういう顔されるんなら、たまにはこういうゲームするのもありかもね」
「・・・ダロ?」
「うん」
「よしっ!だったら次はあのゲームネ!」
「ええーあれクリアしてるよ」
「馬鹿ネ!あれにはちがうエンドもあるのヨ!さーやろっ!!!」
「・・・はいはい」



HEY!BOY!




ちょっと君、
ひまなら彼を
しあわせにしてくれないか。




+++





「ちょ!神楽そっちじゃないってば!」
「えー?わかんないアルーちゃんと教えてヨ」
「教えてるじゃんさっきから」
「わかりにくいんだヨーお前の教え方」
「・・・ねー神楽さ、」
「ん?」
「さっきからわざと死んでるでしょ」
「・・・・・へ?」
「へーそんなに俺と一緒にゲームすんのが楽しいんだーちゃんとそう言やいいのにー」
「なっ違うヨ!自惚れんな!馬鹿兄貴」
「ふーん違うんだーじゃあ疲れたし俺寝るから。終わったらセーブしといてね」
「えっやめるアルか?」
「・・・・・・ぷ」
「・・・!!!笑ってんじゃねーヨばーかばーか!もういいもん!ひとりでできるネ!」
「ごめんごめんー神楽のツンデレっぷりがかわいかったからー」
「うるさい!ばかっ」
「ねー神楽、俺ゲームが終わったってどこにもいかないから」
「・・・!!」
「おいで?一緒に寝よ」
「・・・・・・っ!寝ない!」
「ははっ」




「・・って、がっつり枕もってきてんじゃん」
「うるさいネ!」
「はいはい。ほら、おいで」
「・・・・・・ん」



明日も一緒に、
彼らのゴールを目指そうね

君の手なら、簡単でしょう?
だから私が
煩わせてあげる










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