□story3□

□ホシトキミ
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ほら、耳を澄ましてごらん
星が泣いてる音がする
空を滑り落ちるような
小さな音が。


***


「神楽ー?」

今日も一日、動かしつかれた体をせっせと汚いボロ家に運ぶ。
しとしとと降り続く雨はいつ途切れるのかはわからなくって、太陽を焦がれ続ける彼女には少々残酷な暗さ。
それを生まれた時から受け入れるしかなかった少女はいつだって疲れた俺の体にとびかかってくる。
しかし今日はどうだろう。
玄関のドアを開けてもそこにはいないし、まして名前を呼んでも姿を現さない。

(さがさなきゃ)

きっとこれはかくれんぼでもやってるんだろう。
早く見つけてやらないと、晩御飯のころにはすっかり不機嫌になってしまうから。
持っていた傘を靴箱にたてかけて家に入る。
それにしても今日は疲れた。

「鳳仙・・・いつか絶対殺してやる・・・」

やっぱりちょっとだけ眠ってから神楽を探そう。
ちょっとだけだから、
もうちょっとだけ隠れていてね、神楽。


+++


ふと目を覚ます。
目を開いたって周りは見えないのに、そのまま目を凝らしてみる。
もしかしたら何か見えるかもしれないから。
暗闇の中でも、何か一つ、俺を照らしてくれるものがあるかもしれないから。

「・・・・・・・・・あ」

やばい
やばい寝ちゃった

ちょっとだけって思ってたのに、まーこーなるかな、ってちょっとだけ思ったけど、まさか本当に。
これは神楽もさぞお怒りのことだろう。
今日の晩飯のおかずをひとつ、いやふたつやらなきゃ気が収まらないかもしれない。

ゆっくりと体を起こして明りのついている方向へ。
そこからはほんのりとごはんのいい香りがして、今日量が減るであろうことに小さく肩を落とした。

「神楽ーごめんねー」
「あら、神威、やっと起きたのね」

だけどそこにいたのは体が強くないはずの母で。
いつもよりかは顔色がいいような気がするが、あまり無理はしてほしくない。

「母さん、大丈夫なのー?」
「ええ」

にっこりとほほ笑む母の姿に胸の奥のほうの力がほっと抜ける。

「ねー神楽知らない?」
「神楽?まだ帰ってきてないけど、きっと公園で遊んでるんだわ」
「・・・そう」

それからまた母に背を向けて台所から一歩遠ざかる。
「ああ、迎えに行ってきてくれるのね」
「うん、一応ね」

母はふふ、と小さく笑って鼻歌を歌い始めたからなんだか心地よかった。

+++

そっと空を見上げる。
さきほどまで降り続いていた雨はいつの間にか止んでいて、夜に小さな星が瞬く。
それらはあまりにもちっちゃくて、もし手につかんだとしてもころころと手をすり抜けてしまうかもしれない。
よくみるとそれはふるふると震えていて、

まるで

「・・・・神楽」

きみが泣いてるみたいだ

「あ、兄ちゃん」
「・・・だめだよ、早く帰ってこないと」
「ごめんなさい。でもネ、あんまりおほしさまがきれいだったからつい見とれてしまったネ!」

にっこりと笑う少女は特にかくれんぼをしている様子もないし、俺の迎えが遅くてほほを膨らましているわけでもない。
だけど、

「神楽、泣いてたでしょ」
「え、」

俺を見上げていたおでこをそっと撫でてやる。
もう理由は聞かないよ
だってもう聞くまでもないから

「やっぱね、泣いてると思ったんだ」
「な、泣いてないヨ」
「俺に強がりは通じないよー」
「・・・でも、泣いてないアル」

こんなに小さい時から泣くことを我慢しなくちゃいけない君は、いつだって悲しい心を閉ざす。
決して誰にも見せないように。見られないように。
笑顔で悲しみを上塗りして、錆びついたメッキで痛みを彩る。
でもそんなの、俺には通用しない。

「ひとりぼっちはそんなにさびしい?」
「・・・別に」
「じゃあ泣かなきゃいいのに」
「・・・・」
「お前が泣くとさ、星も泣くんだよ。星が泣く音がしたら、俺はさびしい」
「えー!マジアルか!それじゃあ私、誰も幸せにできてないアル・・・!」
「うん、だからね神楽。悲しい時はいっぱい泣いて、そのあと笑えばいいんだよ。そしたらお星さまも俺も、笑うよ」
「・・・ウン!」

今度の少女の笑顔は眩しくて、ほらみて、
やっぱりお星さまも笑った。



***



午前1時30分。
パジャマのまま、ソファで眠る銀時をするりと通り越す。
寝不足は美容の大敵だから、普段は絶対こんなことしない。
10時には最低でも布団に入って、朝の10時に目を覚ます。
それが私の日常だから。

だけど今日はだめだ。

誰も起こさぬように細心の注意を払いながらそっと玄関を開けて、閉める。
ほんのちょっとだけパジャマでは夜中の風は冷たいみたいだ。
地球に来てから思うことは、この空。
以前住んでいた薄暗い街とは打って変わって、夜でさえも月が明るく街を照らし、星が何億個も輝いている。

だからかな。
お星さまの声がとってもよく聞こえるのは。

何度も上ったことのある屋根の上にあがる。
そこは地球の空を見るには絶景ポイント。

「やっぱりネ」
「・・・・・、かぐら」
「泣いてると思った」

夜の闇の下寝っ転がって空を見上げているのなんて一人しかいない。
私たちにとって、美しい空を直視できるのなんてこの黒い色しかないんだもんね。

「泣いてないじゃん、ばか?」

確かにね
ふざけたようにいつもケラケラ笑っているから。

何年振りなんだろう
私を裏切り、母を捨てたおにいちゃん。
ずっとずっと泣いていた人。

「・・・泣いてるヨ、馬鹿兄貴」

寝ころんだまま動こうとしない兄のそばへそっと近寄る。
むやみに近寄ってしまえば離れて行ってしまう気がして。
5cmくらい離れたところに腰を下ろした。
それでも神威は動こうとはしなかったから、ほんのちょっとだけ嬉しかったりして。

「だって、音が聞こえたもん」
「んー?音ー?」
「そう、音」

ちらりと神威の瞳を盗み見る。
それでもばっちりと目が合ってしまっては盗み見の意味はないんだけど。
目があったことにちょっとだけびっくりしたから空に目を移した。

「あのね、ずっと耳を澄ましてたらね、いろんな音が聞こえるアル」
「うん、まーそうだろうね」
「そういうんじゃないアル。んーたとえばネ、なんか大切なものを失ったときに、ぷつん、って糸が切れる音」
「なにそれー・・・」
「たとえば真っ赤な血に塗れる、さびしい音」
「・・・・・・」
「でも私気付いたのヨ。私にはね、お前の音しか聞こえてないアル」

ずっとずっと。
胸の奥で何もかもがわからなくなって、音を出すことも億劫になってしまったお前の、たまに聞こえてくる音が悲しい音ばかりだから。
違うの
私はそんな音を聞きたいわけじゃない
お前は言った
私が泣くと星も泣くから俺もさびしい、って。
私だって、お星さまにはきれいに笑って輝いてほしいの

だから、

「お前に泣かれると迷惑なんだヨ」


そんなさびしい音ばっかり立てないで
お前が笑っていたあの声が聴きたい
そしたら星たちだって歌いだす

「兄ちゃん、笑って」
「・・・・・」
「私はお前の喜ぶ音が聞きたいネ」
「・・・うん」

5cmの距離はやがて0になり、君の手を握る。

ほらごらん、
お星さまが笑うと
おひさまなんてなくたって輝けるでしょ?




***


すみません!とにかく!すみません!
星音さま、リクエスト・・・どんだけ遅くなるんだって話ですよね!
本当に申し訳ないです涙

しかもこの出来・・・
星音さまのみお持ち帰りOkです!

といってももう見てらっしゃらないかもですが汗
本当に申し訳ありませんでしたっ

那月






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