□story2□
□ひとりよがり=被害妄想
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「んー・・・誰誘えばいいアルか・・」
それはほんの数分前。
アネゴに会いに行った時のこと。
「神楽ちゃん、いいものあげようか」
「え!?何アルか!?酢昆布?酢昆布なんかくれちゃったりするアルか!!??」
「・・・ごめんなさい酢昆布ではないのだけど・・・。これ」
手渡された二枚の紙には、江戸遊園地のペアチケット、と記されている。
「ゆーえんち・・・?」
「ええ。さっき九ちゃんにもらったのよ・・・でもその日には私と新ちゃんでちょっと用事があるの。だから神楽ちゃん、それあげる」
「まじでカ!太っ腹ネアネゴ!!!早速銀ちゃん誘ってくるアル!」
そうして万事屋に走って帰ってきたのはいいものの。
「あー?ダメダメ。その日長谷川さんとパチンコ行く予定あるんだよ」
「てめっふざけんじゃないアル!いたいけな少女が遊園地に行こうって誘ってるアルヨ!?行こうヨー」
「だめだって。だいたいその日は仕事も入ってんの。総一郎くんにでも頼めば?」
「ざけんじゃねーヨ!誰があんな糞ヤロ―と!」
ということで。
誰かに会わないかと江戸の町をひとりふらふらと歩いてみる。
そこに、
「あ!ヅラ!!!」
「ん?リーダーではないか」
走ってその長髪の頭をめがけて走っていく。
「あのね、さっきアネゴに遊園地のチケットもらったアル。ヅラ一緒にいこうヨー」
「ふむ・・・残念だがリーダー。その日には俺も攘夷の仕事があるのでな」
「なんでヨ!ヅラいっつもそういいながらなんもしてないジャン!!!」
「な!なんだとリーダー!聞き捨てならんぞ!」
そう言って桂が顔をしかめた瞬間、
「桂ァァァァァァァ!死ねェェェェェェ!」
爆発音とともに桂を煙が包んでいく。
神楽は煙の中に桂を追おうとするも、さすが今まで窮地を逃れてきたことだけはある、既に桂は消えていた。
「ヅラぁ・・・」
「ったく、逃げ足の速いヤロ―でィ」
聞きなれた声が真後ろから聞こえてきて、神楽はぐるりと総悟のほうへ向きなおす。
「テメ―のせいでヅラと交渉決裂ネ!死ねよお前!」
「あん?んだと糞チャイナ」
「オメーだけは絶対誘わないアルからな!」
「は?」
それから定春に乗って万事屋に帰ってきたわけだけれども。
期限は今週の日曜日。
しかし空いている人が居ないのであればチケットもただの紙切れなわけで。
誰も居ない万事屋の中心にある大きな机にそれを投げ出し、いじけながら浅い眠りについた。
***
ふと目を覚ますと、もう窓からはオレンジがかった光が差し込んでいる。
そんなに眠っていたとは感じなかったが、もうそろそろ二人とも帰ってくる頃だろうと垂れたよだれを手で拭う。
それからボーっと天井を見上げる。
あー・・・
そういえば遊園地に行く相手、探してる途中なんだった・・・
どうにか一人は見つけ出さなければ、遊園地なんてそうそう行けるところではない。
「もう一回銀ちゃんに頼んでみよ・・・」
ん?
机に乱暴に投げ出したはずのペアチケットがない
ええええええええ!?
それから机の下、ごみ箱の中、ポケット、定春の口の中、全てを探す。
が、
「な・・・ないアル」
もう一度寝る前のことを思い出す。
こういうときこそ冷静になれ、冷静に・・・
「あ、神楽ー」
「!銀ちゃん大変ヨ!さっきのペアチケットが・・・」
「んー?ペアチケット?ああ、これのこと?」
神楽がよだれたらして汚しそうだったから、なんてへらへら笑いながらチケットをひらひら弄ぶのは、
「かっ神威!?なんで!」
「暇だから遊びに来ちゃった」
そう言って笑いつづける少年は、悩みがなさそうでいいなと思う。
「勝手に入ってくんじゃねーヨ!!!つかなんでそれをお前がもってるネ!返せヨ!今からもう一回銀ちゃんに脅迫するんだから!」
「えー神楽かわいそうに、一緒に行く人いないのー?まあもともと友達いなかったもんね」
「黙れ糞兄貴ィィィ!返せヨ!」
神威は背伸びしてチケットを奪い取ろうとする神楽の頭をポンポンと撫でながらくるりと回って阿伏兎のほうをみる。
「ねえ阿伏兎ー今週の日曜って俺暇だよね?」
「何言ってんだアンタ!バリバリ仕事入って「暇だよね?」」
「あ・・・ハイ、暇ですね・・・」
「だよね」
ああまた俺が上司の尻拭いだ、とぼそぼそ愚痴る阿伏兎を尻目に、またもう一度神楽のほうへ向きなおす。
「ということだから。神楽心配しなくていいよー。俺が行くからね」
「ちょ!ふざけんなヨ!嫌アル!誰がお前なんかと!」
「行かないの?残念だなー遊園地にはおいしいもの山ほどあるのになー。俺だったらいっぱい神楽にたべさせてやれたのになー」
「キャッホォォォォ!約束アルヨ!日曜日ネ!」
「おっけー」
そういってあっさり決まった兄妹デートに、阿伏兎はまたひとつ大きなため息をついた。
(どんだけ馬鹿で仲がいいんだ、あんたらは)
***
「さあー、次はどれから乗る!?神楽」
「・・・どれでもいいヨ」
「どしたのテンション低くない?」
「・・・・・・・釣られてしまったアル」
神楽は神威の口車に乗ってしまったことを反省していた。
というのも、神威は傍から見ればなかなかかっこいい部類にはいるらしい。
傍にいるこっちの身にもなってほしいものだ。
「お兄さんかっこいいね」
「いやあありがとうー」
「ね、一緒に遊ばない?」
「それはできないよ」
そういいながら自分の頭を撫でながらこの子がいるからね、なんていうと、女達からの目線はかなり痛い。
それももう何回目であるか。
だんだんとイライラしてきたので、とりあえず神威の手を振りはらって逆方向にズケズケと歩いていく。
一応仕事はしているらしく、お金はあるからと買ってくれたポップコーンとアイスクリームを頬張った。
近くにあるベンチに座ると、たくさんの人がにこやかに行き来しているのが嫌でも目に入る。
皆それぞれ幸せそうで、その姿を鼻で笑った。
今私がこんなに楽しくないのは、
相手が悪かっただけ。
もしもこれが銀ちゃんと新八ならば、今ごろものすごくはしゃいでいたところだろう。
そんなことを考えてまた大きなため息をついた。
その途端頭にまた大きな手が容赦なくぐしゃぐしゃと撫でてくる。
「!」
「ちょっとー置いてかないでよ」
「・・・さっきのお姉さん達と遊んでくれば?」
「あれ?やきもち?かわいー」
「死ね」
自分ひとりしか座っていないベンチは空いている面積が広く、そこに神威が座ろうとすると、
「あの、お名前なんていうんですか?すごく、かっこいいですね」
ほら、また。
神威はというとさっきと何ら変わらずににこにこへらへら。
そんな姿にまたイライラする。
勢いよくベンチから立ち上がって、場所を移動しようとすると、すぐさま神威はそれに気付いて話の途中で追いかけてきた。
別にそのままでよかったのに。
そんな文句を口にしようとしたら、神威は遊園地の大きなマップを取り出して何か迷っている。
私に、ここなんかどうかなと聞くものの、全てスルーするためにまるで神威のひとりごとを聞いているみたい。
どうにか行く場所が決まったらしく周りを見渡してマップと照らし合わせながら道を歩いてゆく。
神楽は仕方なしにその後ろ姿を追うことにして、ベンチから立ち上がった。
が、予想以上に人ごみは身動きがとりづらく、神威の背中がどんどんと遠くなっていく。
待って
待ってヨ兄ちゃん
「ま、って」
零れたことばは人ごみにあっさりかき消されてしまった。
いつからかこんなに背も伸びて
歩く速さも速くなった
昔はあれほどおなじだったのに
いつも私を見てくれていた
でも今や
ついていくのに必死な私が
後ろから居なくなったとしても、
気付いてすら、くれないかもしれない
そう
それはきっと、これからもずっと、
成長するたび距離ははなれて
いつしか私を見なくなる日がきっとくる
神威についていこうとする神楽の足は、だんだん遅くなっていって、
ついに
止まってしまった。
(ほらね、)
やっぱり気付きやしない
何も知らずにそのまま進んでいく神威の後ろ姿を見つめていた。
でもだんだん喉の奥あたりが熱くなってきて、どうしてこんな気持ちにならなきゃいけないんだととうとう後ろを向いて歩き出してしまった。
もう帰ろう
なんだかものすごく、銀ちゃんたちに会いたい気分だし。
ふと目を横にやると、ウィンドー越しにあるぬいぐるみを欲しがる小さな女の子が目にはいった。
なんとなく立ち止まって、その子を見守る。
すると、
小さな男の子がやってきて、女の子はその子に抱きつく。
男の子は女の子の頭を撫でると、後ろに隠していたぬいぐるみを妹に見せ、それをプレゼントした。
女の子の笑顔はとても綺麗で、神楽もぼうっと見入ってしまった。
それからはっとして、もう一度人ごみに入り込む。
ポップコーンをあさりながら、人ごみにまぎれて消えていった後ろ姿が頭から離れないことに再びイラっとする。
というよりも、
だんだんと息が苦しくなって、
胸が熱くなって、
泣きそうだった。
(・・・っ、どうして)
なんてばからしいことだろうと、振り切るように出口に走り出す。
銀ちゃん、新八、定春
どうかいつも通り万事屋にいますように、なんて願いながら。
「!!!」
人ごみから伸びてきた手に掴まれたと思った途端、腹のあたりを抱えられて身動きが取れなくなる。
それから軽々と店の隙間を飛びながら、止まったと思うと、
「ギャァァァァ!なんでこんなところに!死ぬヨ!まだ間に合うアル!下りるアルヨ!!!」
「だめ」
観覧車のゴンドラの上にいた。
「いきなり何するネ!つかなんでゴンドラの外?」
「おしおき。なんで勝手にいなくなろうとすんの」
笑ってはいるものの、いつもよりは少し怒っているようだ。
「なんで?」
「・・・」
「なんで、泣きそうなの」
ふと顔を覗かれていることに気付いて後ずさりしようとするが、後ろへいけばまっさかさまのために顔を背けることにした。
神威ったら、何っていう顔してるんだろう。
心配されていたことがなんとなくおかしくて、クツクツ笑った。
さっきまでとは全く違う、胸の奥からぽかぽかするような気持ちがくすぐったくて。
「別に」
「・・・心配しなくたって神楽しか見てないのに」
「そういうのは彼女にでも言えヨ」
たしかに、と笑うと神楽も笑うので、神楽の頭をくしゃくしゃと撫でてきゅっと抱き締めた。
「キレーでしょ?ここからの景色」
「・・・普通はこんなところから見たりしないアル」
「特等席だよ。あ、そうだ」
何かを思い出したように、神威は後ろでごそごそと手を動かした。
神楽が不思議そうにそれを見ていると、
「はい、あげる」
笑顔のまま渡されたのは、さっき女の子がもらっていたのと同じぬいぐるみ。
「な!こ、こんなチャラついたもの、私は欲しくなんか・・・」
「えー?立ち止まってまでもの欲しそうにみてたくせに」
「!!!」
神楽はばつの悪そうな顔をして、神威から離れた。
「ごめんね神楽。神楽は、ひとりじゃないよ」
「・・・何言ってるネ」
「ひとりにしたり、しないからさ」
そんな口説き文句みたいな言葉に、もらったぬいぐるみに顔を隠してまたくすっと笑う。
それから手を繋いだまま、空を仰いだ。
「いい天気」
「ウン、綺麗アル」
「だね」
それはきっと、
君といるからかな、なんて。
***
今も昔も
どんどん成長はしてしまったけれど、
君は何にも変わっていないね
想いは変わっていなかった。
***
ものすごい長いですね!短文のはずなのに・・・。
すいません↓
というか何気に「あのね、」と被っている気がしないでもない汗
こんな私でごめんなさい・・・。
駄文ではありましたが読んで頂いてありがとうございましたw