□story2□

□電話越しの、あいしてる
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こんな、
こんなに寒い日は、

君に、
きみだけに会いたいと思った。




***




今日は銀ちゃんも新八も留守。
本当は自分も行くつもりだったのだが、定春の体調が崩れたために代表して自分が定春の様子をみることになったのだ。

「定春ー大丈夫アルか?」

尋ねてみると少し前よりかは元気になったのか、頭をなめてきた。
その様子を見てすこしほっとする。


「・・・しかし、」


ひまだ。

いつもならどんなにごろごろしていても二人がいて、確かにたくさん話はしないがそばにいるだけで
何かちがうってもんだ。


プルルルル・・・



そこへ一本の電話が鳴り響く。
ここは万事屋。
あたらしい依頼の電話であろう。
重い身体をしぶしぶ起こして電話に出る。



「もしもしこちら万事屋ネ。」
「・・・」
「もしもーし」
「・・・・・・・」

しかし返事はない。

「オイコラいたずらでんわかコノヤロー!そんなことしてただで済むと思って「もしもしもー」」

突然の声に驚いた。
いたずらでんわではなかったのか。
そうか・・・。

「・・・・・・え」
「もしもしもー。おーい神楽?」

でもこれは、いつか聞いた、懐かしい声。


「な、なんで!」
「まー細かいことはいいじゃん?ねーお話しようよ」
「なんでお前が電話なんて」
「そんなの」



「神楽の声が聞きたかったからじゃん?」




ああ。
この男はまたいつものようにこうやって。
こんなウソじみた口説き文句、聞き飽きた。


「・・・なんで電話番号知ってんだヨ」
「俺に知らないことなんてないよ」

何でもしてくれるみせなんでしょ?なんて笑いながら電話越しにどやしてくる。

「話すくらい、無料でしてくれるでしょ?」
「私と話すなんて、安くないアル。お前今何やってるアルか」
「ひみつー」
「バカ」
「ほんっと、かわいくないなー神楽は」
「うっさいアル。で、」


「今日はちゃんと首あったかくして寝るんだヨ」
「・・・・・・!!」

なにびっくりしてるんだよ。
お前が訳もなく電話してくるだなんて、ひとつしかない。
昔から、そうだった。
いつも私の前では凛と振舞っているくせに、ただ高熱が出てしんどいときだけ、どんな夜中でも私のところへやってきて、私の名前を呼んで来たでしょう?

あの顔は、いつだって崩れたことはないけれど。

声でわかるよ。
笑ってるくせに、すごくすごく不安で寂しそうな声。
まるでひとりでまよったこどもみたい。
私はその声にいつだって焦りを感じるんだ。

今だってお前は、この電話越しにわらっているんでしょう?
だけど私にはお見通し。


「・・・なんのことー?」
「騙そうったって無理な話ネ。私を誰だと思ってるアルか」
「俺のかわいいかわいい妹」
「またよくもそんなことをべらべらと」
「やだなぁ。ほんとだよ。じゃないとわざわざ電話かけたりしないからね」

ふん、とわざと大きく鼻でわらってやる。
いやいや、ほんとうはきっと私自身に。
だってこんな、
こんなときでもアイツからかかってきた電話に喜んでいる、じぶんがいるんだから。

少し黙っていると、電話のむこうから聞いたことのある声が聞こえてきた。
あ、阿伏兎だ。
おこってるな。
当然だ。きっと高い熱なんだろう。
阿伏兎も大変だな。こんな上司をもったんだから。

「神楽ー。もっと話したかったけどうるさい部下が邪魔してくるからさー」
「はいはい。こっちも迷惑だからナ。丁度いいアル。さすが阿伏兎」
「あーいけないんだー。お兄ちゃんショック」
「いいから早く寝ろヨ」
「んー。わかったよ」

この電話のさき
声だけは繋がっているのに、どのくらいの距離があるんだろう。
夜中に部屋にのりこんで、一緒に寝よう、なんて迷惑極まりない行為も、ずっと、愛しくってたまらなかった。

「にいちゃん」
「あ、にいちゃんってよんでくれるんだ」

こういうときでもふざけるんだから。
もう隣で眠ってあげることはできないけれど
でも


「どうしても辛くなったらまた電話するヨロシ。私は歌舞伎町でナンバーワンの万事屋従業員ネ。いつでも駆けつけてやるヨ」
「・・・頼もしいね。」
「その分金払えヨ」

神威がくすっと笑う声がした。
なんとなく、くすぐったくて私も笑う。

「ああ。たくさん用意しとくよ」



***


電話越しに、きみがいる
もう決して、近くはないけど

それでもいいんだ

電話越しでも
あいしてる。




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