□story2□

□残像
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その壁の向こうにあなたがいて
また読めない顔で笑って
私の名前を呼んでくれるのかな

きっとそれはないね

だけど


断ち切るためにはその扉を、私の手で開けなくては。


***





目の前には、おおきな扉。
立派といっていいものか、無駄に大きく飾られている。
この奥には、二度と見たくなかった、奴がいる。
どんな顔をして私を拒むのだろう。


静かに扉に手をかける。
それはあまりにもひんやりと冷たくて、少しだけ手をひっこめた。
その冷たさがまるで、
奴の心の扉の温度みたいで、怖かったんだ。

でも

こんなところで立ち止まっては、きっと一瞬で奴にやられてしまうだろう。




「おい」



図太く低いその声に驚いて振り返ったが、相手は大して何もしてくる気配はなく。
おおきな身体で私を見下ろしている。

「・・・アイツに会う前に俺が殺す、とでもいうアルか」

そいつは目当ての兄貴ではなく、その部下の、阿伏兎であった。
だけど殺しに来たにしてはあまりにも気力がなさすぎる。
こいつもよくわからない。
奴の下だから、多分かわいそうな奴なんだろうけど。

「いいや」

短い返事。
なんと愛想のないものか。

「あっそ。だったら呼ぶんじゃねーヨ糞オヤジ」



そこでまた振り返る。
先ほどみたいにこの扉を開けることを躊躇してしまっては格好がつかない。
覚悟を決めよう。

拳にぐっと力をこめて、扉に手をかけた。
すると、





「おい。そっちには行くな」





なんなんだよこいつ。
行って欲しくないって・・・わかりづらいんだよ

「なんでヨ」

阿伏兎はあんまり表情がかわらない男らしい。
まっすぐこちらを見たまま、淡々と答えてくれる。どーりで奴が好む?わけだ。

「お前さんら一応兄妹なんだ。わざわざけんかふっかけたりしなさんな」

「仕方がないアル。私だって、戦うの好きじゃないネ。でも、変えなきゃいけないものもあるんだヨ」

「戦って、奴が変わるとでも?」


どうしてほしいんだ
行って欲しくないと言うことは明らか。
でもそれは、一体どうしてか。
私達のしょうもないけんかにはつきあってられないということなのかな


「夜兎、だからネ・・・・・・」

「お前さんが一番嫌がる言葉じゃねーかい。あんたもつくづく読めない奴だ」

「うっせーヨ。私は、行かなくちゃいけないネ」



「だから、行くな」



どうしたっていうんだよ、だから。
阿伏兎にとっちゃあ私の事なんかどうだっていいだろう
違うか
奴のことがそれほどまでに大事なのか

どっちにしろ
私には関係のないことだけれども


「今あんたが兄貴に会えば、あんたは死ぬ」



「あんたには死んで欲しくないんだよ」




聞き間違えかと、戸惑った。
私に死んで欲しくない・・・?


「お前私がしめたときに頭でも打ったんじゃないアルか。ゆってること滅茶苦茶ネ。」

「前あんたと戦った時に思ったんだ。あんたはこんなところで死ぬべきじゃない。あんたは使える能力を持ってるよ」

「・・・そんなことかヨ」

「それだけじゃない」

「まだあるアルか。急いでんだヨ。早くするネ」





「あんた等兄妹には、死んでほしくないんだよ。」





「最初は部下として上司を敬うようなかんじだったんだがね、ずっと部下やってるうちに家族みたいに思えてきちまってな。お前さんを見たときも、違和感がなくてね」

「・・・そっちの事情アル」

「そのとおり。でもよ、あんたにもそういう奴はいるんじゃないのか」


そういわれてみれば
いつのまにか家族より家族みたいになった人たちがいるな
まるで昔から一緒に居たような

彼らなら
そう思うんだろうか

私の兄妹でも、私が愛していると言えば家族だと


「私だって、行きたくない」

「なら「でもネ」」



「行かなくちゃ、アイツも私も救われないのヨ」



闇の中に落ちた奴。
奴を救えるのは、きっと私だけ。

闇に落ちてから奴はガラリと変わって、私は奴が、大嫌いになった

だけど
本当に奴はあんなやつだったか?
それなら以前の奴はなんだったんだ?


「私がアイツの闇を落としてやらないと、私は一生後悔する」


後悔ばかりの人生だった
まだまだ振り返られるくらい生きてきたわけじゃないんだけど
だけど

助けを求める兄の手を、私が握って、
助けを求める私の手を、兄が握って。

そのときほかに、なにがいるっていうの


それからにっこり笑顔を作って、阿伏兎を照らした。

「ありがとうね阿伏兎。大丈夫ヨ。こんどテメ―に会う時は、二人仲良く手ェ繋いで来てやるヨ」



ごめんね阿伏兎
私はもう、進んでいくしかないんだよ




***



どんなに憎くても
何度許すものかと思っても

いつかの残像が私を引き止める



ああ


どうか離してくれないか
迷ったらきっと、


負けなんだ






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