□story2□

□また会える日まで
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一度は殺したと思った、自分の妹が、目の前に俺を狙って立っている。
これには本当に驚いた。
少しは強くなったんだと感心。
この強さは、大切なものが奮い立たせるものなのだろうか。


「じゃあね」


本当はもっと違う形でさよならしたかったな。
でもここにいつまでも残っていられるわけじゃない。
屋根から飛び降りてもなお聞こえる愛しき俺を呼ぶ君の声。


本当に、





もっとちゃんと、愛したかった。







***



「阿伏兎」

降りるとそこにはボロボロになった部下の姿。
なかなかの重症らしい。意識が遠いようだった。

「どうしたのその姿。みっともない。ボロボロじゃん」

無様な部下の姿をケラケラと笑ってみせる。
一体、だれにやられたのやら。
大体阿伏兎がこんな風にやられるなんて珍しい。

まさかとは思ったが。

「恐ろしい兎がいたもんだね。お兄さん」


阿伏兎は俺を見ながら鼻で笑う。

「とんだ恐ろしい兄妹だよ」


「本当、ダメな部下を持ったもんだよ。あんなひ弱な兎にやられてたんじゃあ、この先やってけないよ」



さっき以上に笑みを深めて、阿伏兎を嘲笑う。
本当に、
そんなんに負けていたのでは生きていけない。

彼女だって、
他人のことを考えすぎたり、人を殺すことに躊躇していたりするままでいれば

確実に、死ぬ。

それに早く、気付かなくちゃいけないんだ。




阿伏兎は何にも言わずにただこちらを眺めている。



何でそんなにこちらを見るのかと問いたいところだが、さっきから、あの弱弱しい小さな兎が頭の中にちらついて仕方ない。


「お兄ちゃん」
なんだよ
「おにいちゃん」
なんなんだよ
「大好きヨ」
やめろ


「置いてかないで」




・・・・・・・・・・


「団長」

阿伏兎がふっとこちらを見てため息を漏らす。

「あんたもボロボロじゃねーか。笑えてくるぜ、本当」

「え?何が」


いつもどうりのへんてこな笑顔を作って阿伏兎に尋ねる。
でも
なんだろう

何度かだけ、覚えのある感覚。
頬を伝う、溢れそうな思い。
殺気立つほど鬱陶しいのに
優しくて
あったかくて
きっとこれは素直な自分の気持ちといっていいと思う。

今俺は、お前のことを思い出して、みっともないほど弱い気がする。










「ぐずぐずしてんじゃねーヨ馬鹿兄貴」






俺を見下して呼ぶのは、なんと愛しいと思った妹の姿。
本当に、神楽はいつも口下手なんだから。
お前のほうが泣いてるくせにさ。

「もう逃がさないアル。お前は私が変えて見せるネ」

なんでそうやって強がろうとするんだろう。
なんであれほどひどい引き離し方をしてもなお、神楽は俺を見つけ出すんだろう。
 

傘を構える。
にこりと笑う。
すると神楽も傘を構えて鋭い蒼い目をこちらに向けてきた。




バッ





神楽はどんな顔をしてたんだろう。
顔なんか見えなかったから、ちょっと気になるな。
やっぱり
神楽はすごくあったかい。
どうしてだろう。
何が違うのかが、俺にはよくわからないけど。

ただ今は何にも伝えられる気がしないから
ちょっとだけ、抱き締めさせてね




「今度はさ」



「今度会う時は、お互い笑って会えるといいね」










冷たい俺の手は、静かに神楽を手ばなした。


***


君に会ったら泣かないって決めていたんだ。
だってまた
どうせ君は困ってしまうでしょう?

だけどずるいよ


君の気持ちは
全部全部、
私のこの胸の中に突き刺さって伝わった。





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