甲斐マサ

□ハッピーハロウィン・後編 甲斐マサ前提
1ページ/8ページ


黒澤にグリコのスクーターで駅まで送ってもらい、帰っていく黒澤を見送ってマサが「次、どうする?」と聞いてきた。
「今日、武装集会ないの?」
「ぶっ・・・やだ!俺!行きたくない!」
ブンブン首を振る甲斐にマサが「大丈夫だって」と宥める。
「こんな姿じゃ分かんないって。ここからなら、誰の仕事場が近いの?」
「し、仕事場まで行くのかよ!」
「だって、歩いたら結構あるじゃん・・」
少し疲れた・・と呟くマサに甲斐がベンチに腰掛けて膝枕する。
「・・連絡するから・・少し寝てな」
「ん・・」
うとうとしているマサの犬耳の付いた頭を撫でながら甲斐がケータイを見つめる。
・・・・誰に・・連絡したら・・いい・・?
甲斐の脳裏に現れたのは幼馴染である柳だった・・・が。
・・・・・あいつ・・米崎並みに鋭いからな・・バレそうな・・気がする・・・
柳のケータイ番号を見つめて甲斐は首を振る。
あとは・・・・鈍いわけじゃないけど、気付かなそうなのは好誠。
・・・・・・仕事場・・どこだっけ・・?
好誠の携帯番号も却下。
・・・・あとは・・・玄場、源次・・将太・・・鉄生・・・
電話なんてかけたら甲斐が子供なのがすぐにばれてしまう。
子供でもブライアンへ連れて行ってくれそうな人・・・と甲斐はケータイの登録を見続ける。
その時ふっと世界が暗くなった。
誰かの影に入ったのだと分かり、甲斐が顔を上げて息を飲む。
「・・・っ・・・!!」
「こいつ・・具合悪いのか?」
寝ているマサを見てその男は聞いてくる。
甲斐はブンブン首を振った。
「ちがっ・・ただ・・・・疲れて寝てるだけ・・・」
「そうか・・・」
男は能面のように無表情なのに優しい手つきでそっとマサの頭を撫でた。
「今日は・・ハロウィンか・・」
そう呟いて背を向けて、歩いていってしまった。
突然話しかけてきた男は明らかに普通ではない空気だった。
冷たいような・・何も信じていないような・・・まるで好誠や柳に、武装に出会う前の甲斐と同じ空気。
甲斐が「動」なら彼は「静」でどこまでもどこまでも静かに冷たく凍っていているように見えた。
心が寒すぎて・・髪まで雪のように真っ白に、冷え切っているようだった。
「ほら。」
甲斐がケータイを見つめながら、先ほど見た男のことを考えていると目の前にコンビニの袋が出される。
「え・・」
顔を上げれば先ほどの男。
袋には温かいココアが2つと菓子が1つづつ。
「あの・・・」
「ハロウィンだろ?」
その白髪の男はそう言って去っていこうとした。
「待って!!」
甲斐が立ち上がると膝の上のマサがベンチに頭を落とした。
「いてえ!!」
マサが喚くが、甲斐は男を追いかけて、男がくれた袋の中のココアを一つ男に渡した。
「あの・・ありがとうございます・・!俺たち・・小さいから2人で半分こします。これ・・は・・あなたが飲んだほうが・・いい気がします。」
そう言ってココアを男に握らせると、案の定男の手はとても冷たく感じた。
「ほら・・手もこんなに冷たい・・・」
甲斐が手を包む。
「お前・・いくつだ?」
「え・・・・7さ・・い・・」
「・・・9つ違いか・・まあ・・今から育てれば・・丁度いいか・・。家、どこだ?」
突然の男の話に何だが背筋がゾワリとする。
さっきまであまり表情のなかった男の目が、欲情に染まったのが見えた。
・・・やばい・・気がする・・
甲斐が一歩あとずさる。
男の腕が甲斐に向かって伸びた瞬間、腕を引かれて駆け出した。
引っ張ったのはマサ。
2人で手を繋いで細い路地を何個も曲がったりして逃げる。
「あいつっ・・知ってる・・一年戦争の時・・のやばいやつ・・」
「鈴蘭なのか!?制服・・ちが・・」
「転校したって・・聞いた・・」
走りながら説明するマサの息が切れる。
再び大通りに出た瞬間、マサは誰かに激しくぶつかって跳ね飛ばされた。
「ぎゃん!!」
犬のような悲鳴を上げて路地をゴロゴロ転がる。
「!!マサ!」
転びはしながったが尻餅を付いた甲斐が叫ぶ。
「おおお!!すまんのう!大丈夫か!?」
転がったマサを抱き上げた大男と、甲斐を抱き起こした男に、マサと甲斐は悲鳴を上げそうになった。
マサの目の前には知った坊主頭の男。鳳仙のボス、キングジョーこと金山丈。
甲斐を抱き上げたのは、キングジョーといつも行動を共にしている氏家だった。
「キングジョーッ!!」
マサが叫ぶと男は「え?」と驚いている。
「ワシを知っとるのか?」
ジョーは首をかしげながらマサを降ろし、泥をはたいてやる。
「あ・・・え・・・っと・・マ・・マサ兄ちゃんが!言ってた」
「マサ兄ちゃん?」
「鈴蘭通ってるマサ兄ちゃん。」
「狂犬の相棒の」
甲斐が付け加えると甲斐の服の汚れをはたいてくれていた氏家が「げ」と呟く。
「そうか、そうか。痛いとこないか?」
「大丈夫。」
マサが尻尾を見せてふりふりすると、ジョーはおかしそうに笑った。
「しっかし・・本当にマサに似てるなあ」
氏家がマサを覗き込む。
「とりっくおあとりーと」
マサがにこっと笑ってそう言うと、目をぱちくりさせている。
これが鳳仙のトップ&bQにはとても見えなかった。
「あ・・ああ、今日はハロウィンか・・」
しばらくして氏家がそういった。
「ハロウィンてなんじゃ?」
ジョーが聞いている。
「子供が変装して家回る外国の祭り。菓子くれなきゃイタズラするぞって。」
「ほう。おもしろいのう。じゃあ、菓子か。ぶつかった侘びもかねてな。」
そう言ってジョーと氏家は甲斐とマサの手を引き、近くのコンビニでたくさん菓子を買ってくれた。
見た目どう見ても高校生に見えないジョーや氏家と一緒にいる小さな男の子2人に、店員は警察に通報しようかどうしようかかなり迷った。
しかし店を出て子供が手を振って別れたのを見るとほっとして電話の子機を戻す。
よく見れば男たちは制服で鳳仙。
良くない噂も聞くが、子供たちも笑っているようだし問題はなさそうだ、と店員は解釈したのだった。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ