花咲く世界

□本音と想い

「テツヤ。部屋に着いたぞ。」
「ん。」
「まだ不貞腐れているのか?」

部屋の扉を開けたユージィンは室内にあるベッドまで黒子を運ぶ。

「別に不貞腐れている訳でも拗ねてる訳でもないし。」
「知ってる。」

そう言いながらユージィンは黒子をそっとベッドの上に降ろす。

「・・・・汗かいたからお風呂入りたい。」
「それなら今用意してやるから待ってろ。」
「用意してくれるなんてどんな風の吹き回しなわけ?」

意外な申し出に黒子はジト目でユージィンを見つめる。

「今日は徹底的に甘やかしてやる。誕生日祝いだ。」
「何それ。」
「良いから素直に甘えておけ。」

ぽんと黒子の頭に手を乗せてユージィンが口角を上げる。

「・・・・・分かった。」
「すぐに準備するから良い子にしてろよ。」
「・・・・子供扱い・・・・。」
「してない。」
「むう・・・。」

数分後、ユージィン浴室から戻って来た。

「・・・・・自分で歩けるんだけど。降ろして。」
「駄目。」

黒子を横抱きにして浴室に鼻歌混じりで向かうユージィン。
その顔はすごく嬉しそうで楽しそうだ。

「いやいやいや!流石に服は自分で脱ぐから!」
「却下。」

そのまま手際よく服を脱がされ、頭から足先まで綺麗に洗われる黒子。
そして湯船に2人で一緒に入る事に。

「お前と一緒に風呂に入るなら湯船に浸かるのも悪く無いな。」
「そうですか。俺は羞恥で死にそうだ!」
「普通に洗ってやっただろ。それに手は出してない。」
「当たり前だ!」
「・・・・・それよりも髪、伸びたな。」
「話しを逸らすな!大体ユージィンが自分の髪の毛切らない代わりにお前も髪の毛切るなって言ったんじゃん。そっちが約束忘れて切ってたら俺も髪切れたのに・・・。」
「切るなよ?」

そう言って、黒子のウィッグの下に隠れていた本来の艶やかな長い黒髪を一房掴んでキスを落とす。

「此処まで伸びるとウィッグ無しで女装が出来そうだよ・・・不本意だけど。」
「ああ、そうだ。明日と明後日の夜なんだが、こっちであるパーティーに参加する事になっている。パートナー同伴可能だからお前も一緒に来い。」
「またですか。」
「因にカールと君の父親も呼ばれている。まあ、花鹿とリーレンが君の父親の代理で出るそうだが。」
「・・・・お前の所為で俺は社交界関係者からバーンズワーズの長男じゃなくて長女だと勘違いされているんだけど。」

大体のパーティーをユージィンのパートナーとして女装で参加している所為で、最近では子供の頃に男として育てられていたバーンズワーズの長女扱いされている。

「だが間違っていないだろう?”お前は性別が無い”んだから。」
「・・・・・・・そうだね。俺は”無性”だ。生まれた時から子供を産む事も産ませる事も出来ない身体だから。」

別に病気でも無い。
黒子は本来あるはずの生殖機能のどちらも無く生まれた。
男性でもなければ女性でも無い。
それでも両親は自分を家族として愛してくれた。
その事を知っているのは両親と自身のボディーガードをしている灰崎を除けば今此処に居るユージィンのみ。

「花鹿もリーレンも知らないんだろう?」
「うん。」
「・・・・・お前に夜這を掛けた奴等は?」
「何時もズボンを脱がされる前にどうにかしてたから問題は無い。不味い時は祥吾が色々フォローしてくれてたし。」

どうでも良い人間に秘密を知られる訳にはいかなかった。
だからこそ、リーレンの叔父の妻になった女に襲われそうになった時に二度と近づく気が起きない様にした。
他にも似た様な事が何度もあったが、危なかった場合は事情を知っている灰崎がフォローしてくれていた。

「そうか。・・・・・・話さないのか?」
「気付かれるまでは話さない。その事で莫迦共に騒ぎ立てられて家族に迷惑かかると嫌だし。別に自分から言わないだけで徹底して隠している訳でも無いし。」
「まあ、それが懸命か。」
「そう言えば何でユージィンは気付いたの?」
「・・・・お前は花鹿以上に性の臭いが全くしなかったからな。花鹿ですら女ではなかったが少女ではあった。でも男だと言っているお前は男でもなけば少年でもなかった。だからと言って女を感じる事もなければ少女でもなかった。」

初めて出会った時を思い出す。
ホテルのテラスで花鹿とリーレンと黒子と寅之助と灰崎が並んで自分を見つめていた時、黒子だけは性別が全く分からなかった。
当時の黒子はメンズ服を着ていて髪も短くて誰が見ても第一印象は少年に見える筈なのに。
少年に見えなければ少女にも見えなかった。

「なのに男の色気も女の色気もお前は持っていた。それは少年少女特有の不安定故の色気では無かった。人は僕を魔性だと言うけど僕からしてみればテツヤ、お前の方がよっぽど魔性だよ。なんせここまで僕を惹き付けてやまないいんだからな。」
「花鹿に惹かれていたくせに?」
「僕が彼女に求めたのは母の愛と生の痛み。僕が生きること許してくれ、生きていると実感する為に痛みを与えてくれた。だから彼女を愛した。でもお前は違う。」

ぎゅっとユージィンは黒子を後ろから抱きしめる。

「空っぽの僕に痛み以外のものをくれた。生きていて良いと言われても要らないと切り捨てていたものをお前は拾い集めた。何度もそれを捨てて無い物としていたのにそれでもお前は気にせずにまた拾って僕に持って来る。僕がそれを手にするまで。」
「だって、幼い頃の自分を見ているみたいで駄目だった。母さんが殺されてからリーレンに会うまで俺は妹以外を信用しなかった。花鹿だけ居れば良い。それ以外は何も要らないと言って全てを拒否していた俺に。」

黒子は震える手を自分を抱きしめている腕に添える。

「リーレンに始めて会った時に気付いた。自分は生きながらに死んでいる事を。だってあの時のリーレンの瞳は何も写さない硝子玉の様だった。全てがどうでも良いと、ただ言われた通りに動く人形で居れば良いと。」
「あのリーレンが?」
「俺の事も花鹿の事も視界に入れているけど俺達を見ていなかったリーレンに花鹿が”私をちゃんと見て!じゃなきゃ嫌!”って言われるまでは目が死んでたから・・・。まさかその後に続く様に”お兄ちゃんもちゃんとリーレンを、皆を見て!じゃなきゃ駄目なの!”って言われるとは思わなかったけど。」
「・・・・・・・・・・・花鹿らしいな。」

黒子を抱きしめる腕が少し緩む。

「だから当時の自分の様なユージィンを見てられなかったんだよ。これは俺の偽善でエゴだ。自分が見たく無いからって我が儘だ。」
「なら、責任をとれ。」
「え?」
「花鹿がくれる痛みだけで生きようとしていた僕を懐かせて執着させたんだ。一生面倒みてもらおうか?」

ぐいっと両手で黒子の頬を掴んで顔を上に向けて笑顔でユージィンが言った。

「・・・一生って・・・ずっと一緒に居てくれるの?」
「お前が望むのなら・・・・・・・いや、お前が嫌だと言っても。」
「・・・・・有り難う。」
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