performance

□雛を守る親鳥
2ページ/5ページ









結論から言おう。
そのまさかだった、と。

「落ち着いてくださいよ今吉さん。」
「落ち着けへんねんっ!桜井が目ェ覚まさん限り、ワシの心臓も止まりそうや!!」
「落ち着いてくださいって・・・。」

着替え途中だった灰崎は上がTシャツ、下が制服のズボンという中途半端な格好で桜井を背負っていた。
花宮は着替えが済んでいたのか、Tシャツにジャージという格好で今吉をなだめながら歩いていた。
今吉は、灰崎の背中で苦しそうに目を閉じている桜井の顔を覗き込みながら不安そうな顔をして歩いていた。
保健室につき、「失礼します」と言って扉を開く。

「あれ、どうしたの?」

保健室の中には、白い髪に赤い瞳のヘタすると少女に見える白衣を着た女性が居た。

「他校の先輩と1年が来てたんですけど・・・なんか、一人倒れたみたいで。」
「そう。そっちのベッド空いてるから、その子寝かせといて。制服からして、桐皇の子?先生が連絡しておくね。」

淡々と話す保健医。
灰崎は言われた通りにベッドに桜井を寝かせ、毛布をかけてやった。
んぅ、と小さなうめき声が聞こえたのはきっと気のせいだろう。

「桐皇には連絡せんといて!」

いきなり今吉が叫び、ガチャンと言う音が響いた。
ガチャンという音は、今吉が保健医が取りかけていた電話を戻した音だった。

「ど・・・どうしたの?」

今吉の態度に焦る保健医。
いきなり受話器を戻されたので、これが真っ当な反応だろう。

「桐皇に連絡なんてしたら、今度こそ桜井殺されてまう。ダメや、ダメなんや。桜井はワシが守らなあかんねん!」
「今吉さん、落ち着いて!!落ち着いてください!」

自分の髪をぐしゃりと掴み、目を見開いて言う今吉。
その目は焦点があっていない。
花宮はなんとか今吉を落ち着けようと、後ろから羽交い絞めにする。

「・・・わかった、桐皇に連絡はしない。ただ、何があったのか全部話してくれる?」

大きな赤い瞳をすっと細め、保健医は険しい口調で言った。
“殺されてしまう”の単語に反応したのだろうか。
灰崎は、「ちょ、先生、右手に持っているボールペンがミシミシ言ってますよ!?それに髪が何かうねってません!?」などと言えるはずもなく、桜井を寝かせたベッドの横に座って今吉の話を聞いていた。

「・・・父親の職業の都合で、いろんなところ転々としとるっちゅー女の子がな、福田総合から転入してきてん。」

福田総合から転入してきた女の子。
その時点で、灰崎はその女の子の正体が分かった。
ああ、白鷺美姫か。
あいつもよくやるなあ。
テツノじゃないけど行動範囲広すぎないか?

「青峰の知り合いやった・・・それに、青峰も桃井もその子をバスケ部に入れたいっちゅーんや。ワシはあんま乗り気やなかったんやけど、青峰と桃井の説得に負けてその子を迎え入れた。最初の2日間はマネの子とも部員とも仲良くやっとったから、あの子入れて正解やったんやって思ったんや。」

そこまで言うと、今吉は言葉を詰まらせた。
よほど思い出したくないのだろうか。
体が小刻みに震え、かすかに嗚咽が聞こえた。
今吉は眼鏡を取ると、目元を乱暴に拭って話を続けた。

「3日目、ワシと桜井は監督に呼ばれて部活に遅れていった。そしたら、部室から変な声聞こえてきてん。なんやろって思って、ドアあけたら、っ・・・!」

何を思い出したのだろうか。
今吉はいきなり立ち上がり、口元を抑えた。
保健医は今吉が何をするのかがわかったらしく、黒いビニール袋を今吉に渡した。

「吐きそうだったら吐いていいよ、辛いようなら話すのはもういいけれど・・・。」

黒いビニール袋の中に嘔吐する今吉。
目元には涙が浮かんでいる。

「・・・あ。」

花宮は何かを思い出したらしく、保健医と今吉に「ちょっと待っててください。」とだけ伝えて保健室を出て行った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ