花鳥風月

□悪夢
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黒子が姫野美姫に嵌められ、仲間に裏切られて限界に達して倒れてから一日が経った。
倒れた原因は分かりきっているが、念の為という医師の判断で検査を行った所、疲労やストレス以外の原因があった。
そして黒子は実は仮性半陰陽だった事が判明した。
話が出た当初は本人も周りも動揺したが、新しく全てをやり直す良い機会だという事で黒子は男から女として生きる事にした。
そしてついこの前まで通っていた誠凛を辞め、霧崎に転入する事に。
名前もテツヤからテツナに改名。
現在住んでいる家も”彼等”に知られているので新しい家に引越した。
そして、テツヤはテツナとして新しい生活を始めた。
”元”仲間とは彼女とは関わりのない所で静かに生きようと。
だが、それは出来なかった。

「ぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」

毎晩の様に姉のテツキが悪夢に魘される。
実際は悪夢ではなく悪夢の様な過去の出来事に。
テツナが倒れた日に青峰と黄瀬に無理矢理襲われた事が彼女にとって消えない傷となって神経を蝕んで行く。
そんな体験をした所為か、医者だろうが父親だろうが男性が近づくだけで恐怖で顔を歪ませて暴れる様に。
女になったとはいえ、”元”男のテツナさえ最初は近づけなかったくらいにテツキは男性恐怖症になっていた。

「ツキ。大丈夫です。大丈夫だから。」
「ああああああああああああ!!!!」

恐怖状態に陥っている姉の身体を刺激しない様にそっと抱きしめてテツナが囁く。

「ぁぁぁぁあああああああっ!」
「っ!」

がりっとテツキに腕を引っ掻かれるが、テツナは顔を歪ませただけで抱きしめるのは止めない。

「テツナちゃん。テツキちゃん。入るわよ?」
「・・・・リコさん。さつきちゃん。」

暫くテツキをなだめていると、寝室のドアが開かれた。
ドアの先にはティーカップを持ったリコと部屋のドアを押さえている桃井が立っていた。
そう、彼女達はテツナ達と共に引越しした家で共に暮らしている。
二人の身体と心を癒して守る為に。
他にもテツナが嵌められた時にテツナを信じた人は皆、この家に住んでいる。
残りのメンバーは皆男なのでテツキを傷つけない為に今、此処に来る事は殆どない。

「良君が淹れてくれたハーブティー持って来たんだけど・・・テツキちゃんは飲めそう?」
「・・・・姉さん。リコさんがハーブティ持って来てくれましたよ。」
「・・・・ぁ。・・・・・・?」

声にならない声がテツナを呼ぶ。
焦点の合ってない目が徐々に合い始め、光が戻って来る。

「テツキちゃん。カモミールティーだけど・・・飲めそう?」
「・・・・・・。」

リコの言葉に正気に戻ったテツキが頷く。
そして手渡されたカップをゆっくりと口元に近づける。

「・・・・・・・。」

お茶を飲んで落ち着いたのか肩の力が徐々に抜けていった。
強張った表情も少し和らいでいく。

「気に入ったみたいで良かった。」
「・・・・・。」
「ツキちゃん落ち着いた?」
「・・・・・。」

心配そうに顔を覗き込んで来た桃井に頷いて返事をする。

「・・・・声。やっぱり出ないね。」
「出るのは悪夢を見た時の悲鳴だけなんて・・・。」
「何で姉さんがこんな目に遭わなきゃいけないんですか!?当事者である僕にならまだしも!」
「・・・・・・。」
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