ファミリー&フィアンセコンプレックス

□まさかのカミングアウト
1ページ/7ページ

始まりは夏の合宿だった。
インハイ後の夏休みに行われる合宿で誠凛と秀徳が鉢合わせた。
両チームの監督によって合同練習が決まりお互いに練習をしていた時だった。

Σドゴォオッ!

緑間は偶然目にゴミが入ったので立ち止まった所に、テツヤが放ったイグナイトパスを顔面で受け止める羽目になった。

「Σうぐっ!」
「ぎゃー!しんちゃん!しっかりしろー!」
「あ。すみません。緑間君大丈夫ですか?」

あまりの痛みに踞る相棒に顔を青ざめさせながら高尾が駆け寄り、バスケットボールをブチ当てた本人は表情一つ変えずに小走りで寄ってくる。

「いや大丈夫「緑間!避けろ!」Σふぐっ!」
「Σちょっ!しんちゃんマジで大丈夫か!?」
「あー、遅かったか・・・。」

顔を上げて立ち上がる途中、宮地の慌てた声が聞こえたかと思うと更にバスケットボールがそれなりの威力で飛んで来た。
そして緑間の脇腹に綺麗にヒットした。

「・・・・すまん。相田。少し休憩入れて良いか?」
「ええ。これは流石にうちもそっちも集中出来ませんよね・・・。」

一部始終を見ていてあまりの状況の酷さ(緑間の不運っぷり)に大坪がリコに提案し、その提案に同じく一部始終を見ていたリコが承諾する。
流石の二人もこれ以上(緑間のみに)被害が拡大すると取り返しのつかない事になると思ったのだろう。
場を一時的にでも落ち着かせる為に休憩を入れる事にした。

「今から10分休憩に入る!難しいと思うが皆休憩が終わるまでに頭を切り替えてくれ!」
「・・・緑間君もしかして今日のおは朝最下位ですか?」

緑間のあまりの不運の重なりっぷりにテツヤがふと呟く。
今日、合同練習を始めてから微妙にバスケだけでなく普通にしている時でさえ不調だった緑間にずっと疑問を抱いていたからだ。

「いや、順位は10位だったんだけど、最悪な事にラッキーアイテムが手に入らなかったんだよなー。代用品も流石に無理だったし。」

未だに痛みを堪えている緑間の代わりに高尾が答える。

「ラッキーアイテム何だったんですか?」
「自分の恋人。」

ふと、高尾が遠い目をする。
その顔にはデカデカと「それは”アイテム”じゃねぇだろ」と書かれている。
そして、テツヤ達の会話を聞いていた両チームメイト達がまさかのアイテムで固まる。
秀徳メンバーも固まっている事から彼等も緑間の今日のラッキーアイテムは知らなかったらしい。
そして多分その場に居た全員が思っただろう、「おは朝が何時も以上に鬼畜過ぎる」と。

「は?」
「だから自分の恋人。」
「え。」
「独り身の場合どうしろってんだよな〜?」
「・・・・緑間君、君何時の間に別れたんですか?」

高尾の発言を聞き、訝し気にテツヤが緑間を見る。

「俺は別れたつもりは一切無いのだよ!」
「え?」

テツヤと緑間の言葉に場が凍り付く。
そんな様子に気付かず、そのまま二人は話しを続けた。

「だって、独り身って・・・。」
「それは高尾が勝手に言っているだけで俺が言った訳じゃないのだよ!」
「え?本当に別れていないんですか?」
「だから別れたつもりは無いと言っている!」
「そうだね。私も別れたつもりは無いかな?」

いつの間にかテツヤと緑間と高尾の分のタオルとスポドリを持ったテツキが緑間の横に立っていた。

「そうなんですか?」
「そうなんです。」

首を傾げるテツヤに持っていたタオルとスポドリを手渡しながらテツキが答える。

「でも、”あの日”から姉さんが緑間君と連絡取ってるのもデートしてるのも見てないんですけど?」
「それはしん君・・・キセキ達がテツヤを傷付けたのと、あの時のテツヤが言っている意味を理解しなかったから理解が出来るまでは距離置くよ〜って私が言ったからだよ。でもちゃんと誕生日プレゼントとバレンタインは妹ちゃん経由で渡してたよ?」
「そうなんですか?」

またも首を傾げるテツヤを気にせず、今度は高尾に持っていたタオルとスポドリを手渡すテツキ。
高尾は呆然としながらも渡された物はしっかりと受け取った。

「別に嫌いになった訳じゃないけど流石に大事な弟を傷付けた相手とは・・・ねぇ?」

気まずそうに目を逸らす緑間を横目で見るテツキ。

「確かに順調故に話しが出てたらキセキワード的な意味で僕の精神がヤバかったでしょうね。」
「ね?だから今までずっと連絡とったり二人で会ったりはしてなかったんだよ。」

テツヤの質問に答えつつ、最後に持っていたタオルとスポドリを緑間に手渡した。

「別にもう僕は大丈夫ですよ?」
「ん〜、まだちょっと我が儘が過ぎるから駄目かな?」
「なっ!?」
「なあに?しん君。先輩や監督に我が儘言ってる身分で文句が有るの?」

何かを言おうとした緑間の胸倉を掴んでテツキが顔をギリギリまで近づけながら言う。

「・・・・・っ〜!俺は別れるつもりはありませんから。」
「?私も無いよ?ただ、おいたが過ぎるからお仕置き中なだけだよ?因に他のキセキは修造にチクってお仕置きしてもらう予定だから。」
「・・・流石えげつないです姉さん。」

笑顔で言い切った姉を見てテツヤの目が更に死んだ目になった。

「まあ、今日は流石に命の危機があるから試合中以外は傍に居てあげましょう。」
「・・・・・・・感謝します。」
「素直でよろしい!」

頬を染めてそっぽを向く緑間の背中をテツキがバシッと叩く。

「あ、そうだ。しん君。」
「?はい?」
「流石に今日四六時中くっ付いている訳にはいかないから気休めだけど。」

そう言ってテツキは前髪を留めていたライムグリーンのヘアピンの一つを外して緑間の前髪に留めた。

「これなら邪魔にならないし、今日ずっと付けてられるでしょ?」
「・・・・有り難うございます。」
「後は姉さんの写真持ち歩けば良いんじゃないんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・常に持ち歩いてるのだよ。」

緑間がベンチに置いてある自身のエナメルバッグを見つめる。
流石に今はポケットの中に入れずにバッグの中に入れているのだろう。

「もしかして姉さんの”あの写真”まだ持ち歩いているんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪いか。」
「いえ、新しいのにしないのかな?と。」
「俺はあれで・・・いや、あれが良いのだよ。」
「・・・・・流石むっつりですね。」
「誰がむっつりだ。誤解を招く言い方をするな。」

ベシッとテツヤの頭を軽く叩く。

「そう言えば姉さんも緑間君の写真持ち歩いてますよね?」
「え?何で知ってるの?」
「だって何時も嬉しそうに写真見てるじゃないですか。」
「うそ!?そんなに顔に出てた?」
「砂糖吐きそうなくらい甘ったるい空気出してれば嫌でも気付きます。」
「う〜あ〜・・・。」
「Σテツキ先輩!?」

あまりの恥ずかしさにテツキは緑間の腰に抱きつく。
それが更に恥ずかしい事だと言う事に気付くがどうにも出来ずそのまま抱きつき続ける。

「あ、弄り過ぎましたかね?」
「く〜ろ〜こ〜!」
「すみませんって。」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ