performance

□哀れなマリオネット
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少女は気付いていない。







私は、お父様の仕事の関係で、いろいろなところを転々としてきた。
小学校の頃の転校回数は12回。
半年に1回のペースで、私は転校していた。
中学時代は、私がわがままを言って帝光中に3年間通わせてもらった。
私は、バスケ部の全員が大好きだった。
汗をかいてボールを追いかける姿も、パスを出すときに大声で叫ぶ顔も、全部が大好きだった。
一生懸命頑張ってる姿が、大好きだった。
一軍の皆が日に日にバラバラになっていくところを見るのが辛かった。
笑顔も全部消えて、二軍と三軍の人達は悪意を持った笑みしか浮かべなくなった。
ざまあみろ、天才なんかが調子乗ってんじゃねぇよって顔をしていた。


でも私は、そんな顔をしていたとある人に恋をしてしまった。


高校は秀徳を受けた。
あの人の志望校だったから、私も受けた。
結果は、あの人が落ちて私が受かった。
ギリギリ一点の差。
あの人の点数があと一点高ければ、私が落ちてあの人が受かっていたという話を聞いた。
私は自分を呪った。
なんで、なんであの人が落ちて私が受からなきゃならないのか。
私はあの人と一緒じゃなきゃ、私は存在する意味がないのだと。

絶望していた私に声をかけてくれたのが、黒鷺先輩だった。

私はいつの間にか、黒鷺先輩に依存していた。
黒鷺先輩の言うことなら、なんでも聞いた。

・・・・そう、たとえ、高尾君と宮地先輩をどん底に突き落とすことだとしても。

黒鷺先輩は、俗に言う同性愛者だった。
でも、私はそんな黒鷺先輩が好きになってしまった。
入学してからずっと、宮地先輩の事が好きだったのだと聞いた。
それでも私は諦めなかった。
一年生が入ってきてから、高尾君の事も好きになってしまったと聞いた。
それでも私は諦めなかった。
むしろ、私は黒鷺先輩と宮地先輩、高尾君が仲良くなる手助けをしようとまで思ってしまった。
黒鷺先輩の提案を受けて、私は宮地先輩と高尾君のドリンクを彼の精液と入れ替えた。
黒鷺先輩は、二人の反応を見てショックを受けた。
すぐさま自販機に走っていった二人を見て、黒鷺先輩は泣き出しそうな顔をしていた。
私が部室で二人のボトルを洗っているとき、黒鷺先輩は大きな音を立てて扉を開けた。
びっくりした私がつっ立っていると、黒鷺先輩は私をいきなり押し倒した。
そうして、「もうこれしか手段がない」と焦ったような表情で言った。
私と性行為をしているところを宮地先輩と高尾君に見せて、二人に嫉妬をしてもらいたいのだと。
何の感情も持たれていないから、せめて嫉妬の視線だけでも自分に向けて欲しいと。
私はそれを承諾した。
あの二人が私になんの感情も抱いていないことは知っていたけれど、好きな人と性行為ができるのなら理由はどうでもよかった。
予想通り、宮地先輩達は情事中に戻って来た。
二人の反応を見た黒鷺先輩は、二人を諦めた表情をした。
ならば、いなくなってもらおう。
そんなことを考えているんだな、と私は察した。
だから私は二人を足止めした。

二人に対するいじめが始まってすぐ、私はお父様の仕事の関係で転校した。
私が転校した一週間後、宮地先輩と高尾君が秀徳から消えたという噂を聞いた。


転校先は誠凛だった。
私は、相変わらず黒鷺先輩と連絡を取り合っていた。
必要であればいつでも体を先輩に預けた。
黒鷺先輩の願いであれば、私は誰にでも擦り寄っていった。
「誠凛の黒子と火神ってヤツが邪魔だ。」
そう言われて、私は二人を誠凛から追放する手段を考えた。
そのときに頭によぎったのは、いじめられて転校していった宮地先輩と高尾君の事。
私は黒鷺先輩に電話をし、計画を伝えた。
黒鷺先輩はその計画に乗ってくれた。
そうして、火神君は無理だったけれど、誠凛に必要な戦力である黒子君、それに伊月先輩と水戸部先輩も学校から追い出すことができた。
このことを黒鷺先輩は褒めてくれた。

私はこのあたりから、壊れていった。
邪魔だと思う人は、徹底的に追放しなければ。
黒鷺先輩の邪魔をするものを追放することが、私にとっての快楽だ。
そう思い始めた。

次の転校先は海常だった。
私は転校が決まって直ぐに、黒鷺先輩に電話をした。
海常に邪魔な人はいないか。ムカつく人はいないか。
私が追放するから。
私が黒鷺先輩の役に立つから。
そう言って、私は先輩からの返事を待った。
「変なフォームでシュート打つ、森山って人だな。キセキは1年だけど俺の憧れだから、黄瀬には絶対に手を出すなよ。」
嬉々として邪魔な人を伝える先輩に、私の心は早鐘を打った。
先輩が私を必要としてくれている。
私はキセキの世代の関係者、という立場をフルに使って森山先輩をハメた。
元から女好きであった森山先輩をハメるのは簡単だった。
ラブレターを装って森山先輩のロッカーに手紙を忍ばせ、黒鷺先輩の友人だという人に私を犯させた。
その後森山先輩が入ってきて、情事の跡を色濃く残している私を見て驚愕。
近寄ってきて、森山先輩が制服の上着を私にかけてくれる直前に悲鳴を上げる。
案の定、笠松先輩は森山先輩を殴った。
黄瀬君は私を心配してくれた。
その時は珍しく監督も練習を見ていて、森山先輩は部停を喰らっていた。
そうしてほどなく、森山先輩は転校した。
3年生の先輩であったから成功する確率は低かったけれど、成功した。
そういえば3年生といえば宮地先輩もそうだったな、受験大丈夫かな。
そんなことを頭の片隅で思いながら、私はまた転校した。

どうやら中学生の頃のわがままがお父様の仕事に影響を与えてしまったらしい。
1ヶ月に1回〜2回程転校する、という超ハイペースで私はいろいろなところを転々としていった。

次の学校は正邦だった。
「正邦の柱は一本だけでいいと思うんだ。春日隆平ってヤツが邪魔だ。」
そう言われ、私は彼を陥れた。

次の学校は福田総合だった。
「キセキを汚した灰崎祥吾を消せ。」
そう言われ、私は灰崎君を陥れた。

その次は桐皇だった。
「1年のくせに出しゃばってる桜井良が邪魔だ。」
そう言われ、私は桜井くんを陥れた。
今吉さんまで転校してしまったことを、黒鷺先輩に怒られてしまった。
ごめんなさい。

その次は洛山。
「無冠の五将が3人もいると、赤司が霞む。赤司を馴れ馴れしく呼んでいる実渕玲央が邪魔だ。」
そう言われ、私は実渕先輩を陥れた。

そして、今いるのは陽泉。

「もしもし、黒鷺先輩ですか?」
「ああ。美姫は本当によく働いてくれる。俺のためにありがとな。」
「いえ、黒鷺先輩のためなら!あぁ、今私、陽泉にいるんです。邪魔な人はいますか?」
「・・・そうだな、あの厄介なゲームメイクをするPGが邪魔だ。名前は・・・福井健介、とかいったかな?」

ニヤリ、と、電話の向こうの黒鷺先輩が笑ったような気がした。


「任せてください。」


壊れた私は、黒鷺先輩の姿を想像してゾクゾクと快楽に溺れていた。



ああ、待っててください黒鷺先輩。
あなたの邪魔なもの、全部潰してみせます。
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