performance

□雛を守る親鳥
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「テッちゃん、俺にもパス回してよー!」
「あれ、回してませんでした?」
「昨日は2回しか回ってこなかった!」
「そうでしたか。すみません。」
「それ言うんなら俺に回しすぎじゃねぇか?テツヤ。」
「・・・そうですか?」
「昨日だけで12回。」
「・・・帝光の頃のクセですかね。灰崎くん、髪型と髪色戻したんで。」

黒子にとって、見慣れた灰色の髪を見る。

「帝光っつっても、俺とテツヤが一緒にプレイしたのって両手の指で足りるくらいじゃねぇ?」
「そうですか?あ、でも灰崎くんたまに三軍来てたじゃないですか。暇つぶしとか言って。」
「そーだっけ?」
「青峰大輝が来るまでは祥吾の方がテツに良く会いに来ていましたね。」
「あー・・・。って、なんでテツノが知ってんだよ?お前、あんときはバスケ部じゃねーだろ?」
「それはテツナ情報に決まってるじゃないですか。ね?」
「はい。」
「・・・・お前は二軍マネだっただろうが・・・。」
「それはそれ。これはこれです。」
「お願いだから俺を仲間はずれにしないで!」
「あ・・・忘れてました。」
「うわ、テッちゃん酷い!和成泣いちゃう!」
「キモイです高尾君。忘れていたのは謝りますし、今日はパスちゃんと回しますから。」

1年生5人がわいわいと騒いでいるのを見ていた2,3年生達は、癒されたような顔をしてのそのそと着替えを始める。
キィ、パタン。
そんなロッカーの音が響く部室は、今日も賑わっていた。
好きな歌手等の話題で盛り上がる者、1年生5人のように昨日の練習について話す者、今日の授業について話す者、部活終わったらマジバ寄ろうぜ、と誘う者等・・・。

しかし、そんな平和的で賑やかな空気も束の間。

バアンッ、という派手な音を立てて部室の扉が開いた。

あれ、全員いるよな?
その場の全員がそんなことを考えながら扉の方に体を向けると、花宮にとって見覚えのありすぎる男が立っていた。

「っ、助けてぇや・・・花宮!」
「今吉さん?どうしたんだよ。」
「桜井が、桜井がっ!」
「はっ?」
「桜井が目ぇ覚まさへんねん!病院行っても救急車呼んでも断られてもうて、どないしよ、このままじゃ桜井が!」

珍しく取り乱す、眼鏡をかけた黒髪の男・・・もとい、今吉翔一。
彼は自分と5cmほどしか身長が違わない桜井良を背負い、はあはあと息を乱しながら花宮に詰め寄った。

「あーもう、わかりましたから!とりあえず保健室行きましょう、ね?」

取り乱している今吉の肩をガっと掴み、宮地に「今日は部活頼みます」と短く伝えた花宮は
近くにいた灰崎に桜井を背負わせ、4人で保健室に向かった。

「なあ伊月ー、あの人って桐皇の今吉さんだよな?」
「え、あぁ・・・多分?」

残された部員たちはぽかーんと口を開け、開けっ放しのドアを見る。
花宮が散々“妖怪サトリ”と言っていた男は、あんなにも取り乱すのだろうか?
自分たちのイメージでしかないが、今吉と言う男はどこまでも冷酷な男ではないのだろうか。
そんなことを考えながら、ゆっくりと着替えを再開し始める一同。

「お前等着替え終わったら即アップ始めろよー。花宮がいないからってサボんじゃねぇぞ!」

いち早く着替えが終わった宮地がそう言い、部室から出て行く。
その声とほぼ同時に、部員たちの着替えのスピードはぐんと上がった。

「・・・また、白鷺絡みなのかな?」

春日の小さな呟きは、ロッカーの閉まる音でかき消された。
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