performance

□第二の犠牲者
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「っは、っはぁっ・・・!」

逃げる、逃げる、逃げる。
自分より大きな先輩の手を引いて、黒子は大通りを走り抜ける。
いくら黒子の影が薄くたって、“あの”先輩は僕を見つけるだろう。
それに、黒子は今水戸部と一緒にいる。
大柄な先輩を見つけるのは、“あの”先輩であれば3秒あれば十分だろう。
ミスディレクションをフル活用するためにも、黒子達は人通りの多い大通りを選んで逃げていた。
ミスディレクションとは、所謂視線誘導。
隠したいもの・・・今回は自分と水戸部よりも目立つものが必要になる。
他の人たちよりも一回り大きい水戸部よりも目立つものはあまり見つからず、だから黒子達は派手な看板が多くある大通りを選んで駆けていった。
まあ、“鷲の目”を持つ先輩にとっては無駄なあがきかもしれないが。
完全に撒いたのだろう、と思って黒子と水戸部は細い路地に入る。
あのまま大通りを歩いていたら、きっとまた先輩に見つかってしまうだろうから。

「っ―――こ―――とべ――――――どこにいるんだ・・・黒子、水戸部・・・!」

先輩の叫び声が聞こえる。
いや、叫び声というには小さい声だが、確実にその声は僕等を呼んでいる。
水戸部は乱れた息を整えながら、どうする、と視線で問いかけてきた。

「・・・隠れましょう。声の主は伊月先輩ですから、気休め程度にしかなりませんが・・・。」

もともとスタミナのない黒子がまた走るには、少なくともあと15分ほど休憩が欲しいところだ。
比較的冷静に言葉を返したつもりだが、最後の辺りでは声が枯れてしまった。
ああ、喉が渇いた。
簡単に言えば、黒子はいじめられている。
同じ帝光中学校に通っていた“白鷺美姫”というマネージャーにハメられて。
秀徳に進学したはずの彼女は、何故か誠凛に転入してきた。
転入、と言っても親の都合で1週間ほどしかいないらしい。
・・・その初日に、黒子はハメられたというわけだが。
しかも、初日にちゃんと“親の都合で1週間で転校してしまいますが”と言っていたのにも関わらず黒子の“元”友達は“お前の所為で辛くなって転校してしまった”と言いがかりをつけては黒子を殴る。
流石に二度目ともなると泣きたい。
一度目も二度目も信じてもらえない自分って・・・。
そんな黒子を守ってくれたのが、水戸部先輩だった。
親友であった小金井の意見も聞かず、普段は無口な先輩が拙い言葉で「オレ、が守る。黒子を、何があっても」
と言ってくれた時には号泣してしまった。
黒子がいじめられ始めて2週間目。

黒子は今、逃げていた。
伊月から。
近くにいるはずなのに、“鷲の目”を使わずに黒子達を探し続ける伊月先輩に疑問を持ったが、そこまで考えている暇がないのだろうと軽く頭を振って疑問を飛ばす。
今、伊月は黒子達の入った路地の真ん前でキョロキョロと黒子を探している。

・・・あ、まずい。目があった

「見つけた・・・!」

心の底から嬉しそうな表情をして、伊月はこちらに駆け寄ってきた。
逃げようと足を動かすが、疲労で足がうまく動かずにその場にへたりこんでしまう。
水戸部先輩が黒子をかばおうと、黒子の前に立ちふさがる。

「・・・ごめんっ!」
「へっ?」

黒子は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
前にいる水戸部も、きっと目を見開いているんだろう。
伊月は体をほぼ90度に折り曲げ、目をギュッと固くつむって謝罪の言葉を吐いた。

「俺、怖かったっ・・・確実な証拠なんて何もなくて、でもお前等のこと信じたくて・・・それでも、日向達に嫌われんのが怖くて・・・。だから、守れなかった。水戸部みたいな勇気がなかった。ホント、ごめん!ごめん、黒子、水戸部。」

ギュっと固くつむった目から、透明な涙が溢れる。

「ホント、ごめん・・・。泣く資格なんて、ないのに・・・。」

弱々しく紡がれた言葉に、心が抉られる。
水戸部が黒子と伊月を交互に見る。

「・・・泣いても、いいんじゃないですか?」
「えっ・・・?」

黒子の言葉に伊月が顔を上げる。

「泣いてもいいと思います。だって、伊月先輩・・・苦しんでるんでしょう?それに、僕と水戸部先輩を見つけてくれたじゃないですか。嬉しかったです。鷲の目を使わずに僕たちを見つけてくれて。」
「え、それってどういう・・・。」

黒子は水戸部に手を貸してもらって立ち上がり、伊月を見て微笑んだ。

「ありがとうございます、信じてくれて。僕、ちゃんと知ってますから。伊月先輩が、伊月先輩だけが僕に暴力を振るわなかったこと。暴言を吐かなかったこと。全部、知ってます。ありがとうございます、僕も伊月先輩のこと信じてます。」

今、僕はうまく笑えているのだろうか。
ぼろぼろと目からこぼれ落ちる涙を止めることもできず、ぐしゃぐしゃの顔でだらしなく笑えているのだろうか。

黒子達はしばらく、3人で笑い続けた。


ああ、味方が増えたところで・・・





地獄に、戻ろうか。
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