performance

□崩壊の始まり
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その日はいつも通りの日だった。

「ナイス!真ちゃん!」
「五月蝿いのだよ。高尾。」
「あー・・・彼奴轢いていい?つか轢く。木村軽トラかせ。」
「後でな。」

1年スタメンコンビが何時ものやり取りをして、その片方のいつも通りのツンデレに宮地がキレる。
そして朝練が始まり軽い休憩が入った時だった。

「お疲れ様です。」

マネージャーが何時もの様にボトルを持ってドリンクを部員に配って行く。
ドリンクを貰った宮地と高尾はいつも通りドリンクに口をつける。
が、何時ものドリンクの味はしなく不愉快な味が口の中を駆け巡った。

「ぐっ!?」
「・・・・っ!?げほげほげほげほっ!」
「どうした?宮地に高尾。」
「白鷺!何入れたこれ!?」
「・・・・何とも言えない味が・・・。」
「え?普通にドリンク作りましたけど・・・?」

おろおろし始めるマネージャー。

「わりぃ、ちょっと自販機行って来る。せっかく作ってくれたのに悪い。これは捨てておいてくれないか?」
「あ、はい。」
「ごめん。俺も・・・。」
「うん。」

そして吐き気を堪えながら高尾と共に自販機に向かう。
自販機に付いた瞬間、考える間もなくスポドリを選択肢、急いでペットボトルの蓋を開けて飲む。
高尾はよっぽどひどかったのか、一気にドリンクを飲み干していた。
食堂についている時計を見ると既に授業は始まっている時間になっていた。
急いで二人は部室に戻った。

「・・・んあっ!・・・ああっ!」

部室の前まで来ると怪しい声が聞こえた。
思わず二人はその場で固まる。

・・・・・何か拙くね?
どうします?着替えとか中っすよ?
流石にジャージで・・・・駄目か。
開けるしかないですね;

と、互いにアイコンタクトを取る。
そして高尾が何事も無かったかの様に話しだしてドアノブに手をかける。

「で、その時のラッキーアイテムが・・・・。」
「ラッキーアイテムっていい加減に・・・・・何してんだ?」

更衣室に入ると、案の定部員(2年)が白鷺とヤっていた。

「はっ、あっ・・・高尾、くん・・・宮地・・・さん・・・!?」
「ッチ・・・邪魔しやがって・・・!」

その部員は素早く衣服を着て、二人を突き飛ばして走っていった。
そして白鷺は驚愕した様子でこちらを見ていた。

「・・・その、美姫ちゃん・・・服、着てくんない・・・?」

目のやり場に困り、二人は体ごと視線を背けた。

「そんな、私の体見てくださいよ。」

聞こえたのはいつもの可愛らしい声ではなく、不敵な声。
いつもと全く違う雰囲気に驚き、白鷺に向き直る。

「何をしているのだよ!」

息を切らした緑間が、開けっ放しだったドアから入ってきた。

「は・・・?」
「・・・何言ってんの?緑間。」

まるで最初から、何かを知っていたような口ぶり。

「黒鷺先輩が言っていたのだよ。高尾と宮地さんが、白鷺を犯していると。」

黒鷺先輩、というのは先程まで白鷺とヤっていた部員。
高尾にスタメンを奪われて、高尾に地味な嫌がらせをしていた部員だ。

「はぁ!?俺と宮地先輩、ついさっきまで学食にいたんですけど!?」

よほど急いでいたのだろう。
緑間はズレた眼鏡をカチャリとあげた。
緑間は高尾の反論すら聞かず、ほぼ全裸の白鷺の体に自分のジャージをかけた。

「緑間、くん・・・ありがとう・・・・。」

カタカタと小刻みに震え始める白鷺。
緑間は彼女の頭をわしゃわしゃと撫で、二人を睨む。

「高尾、宮地先輩。大坪さんが呼んでいたのだよ。」

やけに冷たい目線。
それを見た二人は、ああ、コイツは勘違いをしているんだ。俺達は何もしていない。俺達は無実だ。と心の中で呟く。

「更衣室で何をしていたんだ!言え!!」

すごい剣幕で俺と高尾を見る大坪。

「何もしてねーってば。俺と高尾が自販機まで行って、戻ってきたら白鷺と黒鷺がヤってたんだよ。」
「本当です!俺も宮地先輩も、何もしてないんです!!」

二人は大坪に反論する。
更衣室に監視カメラがなかったことは痛い。
ちょっと前まではついてたのにだ。
クソ、壊したの誰だよ。ああ、白鷺だったな。そういや壊しちゃってごめんなさいとか謝ってたよな・・・と、遠い目をして思い出す宮地。

「・・・もういい、お前らがそんなやつらだったとは思わなかった。一週間、部活に来るな。頭を冷やして来い。」
「ハァ!?濡れ衣だっつってんだろ!何もしてねーのになんで部停喰らわなきゃなんねーんだよ!!」
「宮地!」
「あ”!?」
「・・・濡れ衣でも、ここは逆らわないほうがいい。」
「んでだよ!刺すぞ!!」
「・・・わかりました。」

どこか諦めたような声が、やけに大きく響いた。

「高尾!?」
「いいんスよ、疑い晴れるんなら部停喰らっても。真ちゃんだって、どうせ俺のこと信じてないんでしょ?」

目に涙を溜めた高尾。
その目線は確実に緑間を捉えている。

「当たり前なのだよ。白鷺を襲った罪は重い。部停ではなく、さっさと部活を辞めるのだよ。別にお前でなくても代わりならばいくらでもいる。」
「・・・そ。じゃあ大坪さん、俺帰りますね。」

宮地は見逃さなかった。
代わりはいくらでもいる、と言われた高尾のひどく傷ついた顔を。

「ッチ・・・もーいーわ。俺も帰る。最後にもういっぺん言っとくけどな、俺達は何もしてねぇよ。」

そう言って宮地は、荷物を取りに部室に戻った。

「っふ・・・うぇっ・・・真、ちゃんっ・・・なんでっ・・・・!」
「・・・やっぱりな。」

宮地の予想通り、高尾は部室で泣いていた。
しかも、泣いていた場所は緑間のロッカーの前。
宮地はは高尾の荷物と自分の荷物を肩にかけ、高尾に言った。

「高尾、俺ん家来るか?」
「っ、お願い・・・しますっ・・・うぇっ・・・・。」

高尾は、弱音を吐くときは必ず俺の家に来る。
いつもの明るい高尾がデフォルトじゃないって事を俺は知ってる。
高尾の過去も、高尾が緑間を誇りに思っているということも。

「俺っ、真ちゃんの・・・緑間の、ことっ・・・相棒、だって・・・思って、た、のにっ・・・!親友、だ、って・・・!」
「・・・知ってるよ。」
「代わり、とか、いない、って・・・思って、た、信じてっ・・・たのにっ・・・・!」
「・・・そうだな。」

大切な相棒だ、と思っていた緑間に“代わりならいくらでもいる”と言われたことがよほどショックだったのだろう。
高尾は帰り道も、宮地の家についたあともずっと泣いていた。
泣き疲れた高尾が寝たことを確認すると、宮地は木村に電話をかけた。

『何?』
「いや・・・ただ、今日の練習どうだったのか気になって。」
『散々だった。お前達のせいでな。』
「・・・そう、か。」
『大坪と緑間は完璧にお前等がやったって信じてる。俺は一応様子見。』
「・・・・へぇ。」
『・・・お前ら、しばらくは学校来ないほうがいいかもな。』
「なんで。」
『白鷺、いろんなとこにアピールしてる。襲われた、中出しされた、助けてーって。』
「・・・白鷺に黒鷺のヤロー・・・後で轢いてやる・・・。」
『てか、なんで黒鷺?』
「言ったろ。白鷺と黒鷺がしてる最中に俺と高尾が更衣室入っちまったんだよ。」
『・・・へー。あ、悪い。親父が呼んでるからまたあとで。』
「おー、じゃーな。」

プツリ。
電話の切れた音と共に、宮地はスマホの電源を切った。
そして次の日から、二人に対する嫌がらせは始まった。
机の上に花が置いてあるのはもちろん、下駄箱に変なモン入れられたり裏サイトにいろいろ書き込まれたり。
今じゃ電話帳のアドレスのほとんどは着拒状態で、様子見と言っていた木村も嫌がらせに積極的に加担している。
それが続いて2週間。

「部活を辞めろ。」

大坪に、そう言われた。
二人共その時にはバスケなんてできないほどに怪我を負っていたしメンタルも弱っていた。
二人はそれを承諾し、バスケ部を辞めた。
二人の代わりにレギュラー入りしたのは黒鷺と鸛。
鸛は二人をやけに気にかけていたが、何かしらのアクションを起こすことはなかった。
更に退部を言い渡された直後から、嫌がらせは悪質なものに変貌していった。
“自殺の練習”と言われ手首を切られたり、屋上や窓から落とされかけたり。
高尾に至っては同性に掘られたという。
そうして今日、公園で駄弁っているところに原が現れた。
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