・NL小説・

□Sleep
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「ありがとうございました。またお越しくださいね」

最後のお客様を見送り、フィリアは店の看板を閉まった。

自身が開いた小さな骨董屋は、始めた頃と比べると随分客が増え、それなりに順調にいっている。

それでも繁盛してるわけでは決してなかったが、フィリアにはこれで十分だった。

とても平穏で素晴らしい日々。これ以上の幸せがあるだろうか。

以前の世界の存亡をかけた戦いを思い出せば、改めてそれを噛みしめる。

「姐さん、おつかれさまでしたー!」

「はい。クラボスさんもジラスさんもおつかれさまです」

同居人との挨拶も交わし、フィリアは自室へと足を向けた。急いで夕食の準備をしなければならない。エプロンを取りにいくだけのつもりだったのに、ドアを開けた瞬間体が硬直した。

「また、この人は…」

黒いマントに、綺麗に切りそろえられたおかっぱ頭。ベットに横たわっているそれが、ゼロスだとフィリアは疑わなかった。

もちろんゼロスとは寝室を共有する仲でも、ましてはベット使用を許可する間柄でもない。彼は魔族なのだ。竜族のフィリアとは相反する種族であるし、それ以上にフィリアはゼロスという存在自体毛嫌いしている。

本当だったらぶん殴ってでも追い出してやるところだが、それをしなかったのは彼が眠っているようだったからだ。いくら気に食わないからといって眠ってる相手を無理に起こすのは気が引ける。

フィリアは顔を覗き込んだ。ぶん殴るかわりに軽くほっぺでもつまんでやるつもりだったが、その寝顔を目にするとそんな気も削がれた。

あまりにも無防備な寝顔だった。

いつものゼロスからは想像もできないくらい穏やかに寝息を立てている。
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