短編
□生きてる理由(わけ)
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まるで嵐の様だとアッシュは笑うが、それも直ぐに止んでしまう。
ふっと笑顔は消え去り、代わりに現れるのは恐怖にも似た不安。
アッシュは仕事や勉強をしている事で無理に忘れていたのだ。
ルークと居ると、楽しい。
ルークが笑うと、愛しい。
愛しくて愛しくて、堪らなく不安になる……とアッシュは思う。
エルドラントで身体が朽ち、気が付いたらこの世界に帰って来ていて。
死んだはずの自分と、音素乖離して消えたはずのルークとふたり、目覚めて驚いた事は昨日の事の様に思い出せる。
「……確かに生きている……………今は」
確証は無いが多分ローレライの仕業なのだと思う。
だからこそ不安なのだ。
いつまで自分達は生きていられるのか。
ある日突然、消えてしまわないか……。
(完全同位体に起こるビックバンの兆候は消えたと眼鏡は言っていた……だが、)
それでもルークは、レプリカなのだ。
いつかは音素乖離という残酷な運命が待っている。
明日消えてしまうかもしれない。
誰にも知られず、空に還ってしまうかもしれない。
愛しくて、今が幸せであればある程失う事への恐怖が募っていくアッシュ。
ルークの出て行った扉を見つめ、存在を求める様に手を伸ばすのだった。
「おはようございます!アッシュさん、ルークさん」
翌朝、いつもより遅めの朝餉を終えたふたりにギンジという意外な来客があった。
彼によればルークに、アルビオールで行きたい所があると頼まれたと言う。
つまりルークが秘密にした行きたい場所は、それなりに遠出をしなければならないらしい。
「全く…休日だってのに遠出をするか普通」
「休日だからだろ?普段出来ない事をしなきゃ勿体ねぇじゃん!」
呆れるアッシュに、だが嬉々として話すルーク。
溜め息を零すが、しかしその顔はどこと無く嬉しそうに見える。
「……で?何処に行くんだ?」
「タタル渓谷!」